男の過去編 3/5
生まれて初めてしたロン毛。するつもりなんてなかったけど、バリカンがないから仕方ない。引退後の楽しみにしてたのに。
いつもふわふわの髪に大きなキラキラした目で魔女みたいな爪をしていた三好さんがみんなの髪をきれいに散髪してくれてる。風魔法のエアカッターで。とても器用だ。見た目はなんか変わったような気がするけど、やっぱり三好さんはキラキラしてる。
いつも教室で本を読んでて話している姿を見たことがなかった吉川さんは、疲れているのに自由時間に言葉の勉強の復習をしてくれてた。
佐藤君もみんなに魔法のコツを教えてくれた。
田中君は異世界の常識とやらを教えてくれた。そしておれつえーになるんじゃないのかよっていつも泣いてた。
俺は筋肉痛にならないためにストレッチを教えたけど、そんな体力ないってしてくれなかった。残念。効果あるんだけどな。
徐々に減っていくクラスメートを前に、みんな何かしら生きていくためにできることをしたかった。
阿部さんは一番大変だったと思う。いつもフラフラになりながら、怪我を治してた。治癒魔法って言うらしい。珍しいらしくって阿部さんが言ってくれたおかげで食事も多少改善された。たまに肉が出るようになった。
「松山君、治そうか?」
「ん、いい。これぐらいなら自己免疫で頑張る」
薄皮一枚切られた腕。ちょっと血がにじんだ程度。阿部さんは優しいから好意で言ってくれてるのはわかるけど、こんなことで魔法なんて使われたくない。
魔法なんてわけの分からないもので体を作り替えられたくない。
阿部さんも答えがわかってたのか「そう」って言ってほかの人を治しに行った。
言葉もある程度の会話ができるようになって、魔法もそれなりに使えるようになると雑魚寝だった部屋は男部屋と女部屋に移された。二段ベッドが左右にあるだけの部屋。それでも、もう俺たちの男部屋は埋まらない。一つのベッドが使われないままだ。女部屋は二部屋もあるって言うのに。
言葉がわかるようになると知りたくなかったことまで知ってしまう。
いや知っていたけど、はっきりと答えを知ってしまった。
あのきれいな石はやっぱり命令を下すものだった。
召喚してまず一番にすることが動きを止めて、都合のいいように動かせる駒にするために隷属させることだって。まあそうだよね、って思う。そうしないと力つけられて反乱されちゃうもんね。
タチの悪いことに死なない限り、この契約は有効なんだって。たとえこの世界の英雄や勇者になろうと、あの石を持つ奴に絶対服従だって。本当にふざけてる。
今日も今日とて、いつもの日課。
落ちている石を拾って、ムカついた気持ちのままで肩を温めるのも忘れてつい、力任せに投げてしまった。
跳ね返る音はなく、石が木を貫いていったのが見えた。
月も出てない、曇りの夜空。暗闇の中、それが、見えた。
ぼんやりとその穴を見て、ただただ、立ち尽くした。




