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第27話 最後のご褒美

 完食した醬油ラーメンの器は早々に店員に持っていかれ、卓上には冷めたグラタンとフライドポテトが残った。


 時刻は三時半。

 泣き止んだユユは窓の外に目をやり、月光に照らされる海を静かに眺めていた。


 そういえば再会したときも、ユユは海を眺めていた。

 波の音は、もう聞こえない。


「――虎太郎さん」


 窓から目を移し、俺の方を見てくるユユ。

 赤く充血した目には、もう涙は溜まっていなかった。


「何だ? ユユ」


「最後のご褒美、いいですか?」


「……ドンと来い」


「隣、座りたいです」


 俺は黙ったまま、窓際へ少しずれる。

 ユユは立ち上がり、俺が座っているシートへと滑り込んでくる。

 俺のすぐ隣に座り、体を密着させ、肩に頭を預けてきた。

 彼女の柔らかい髪の毛が頬に触れる。

 ユユの小さな鼻も唇も、すぐそこにある。


 ユユは黙ったまま、俺の手を握ってきた。


「ユユ」


「もう一つのご褒美です。しばらく、このままでいたいです」


「……ああ、わかったよ」


「手、握り返してほしいです」


「おい、どれだけ追加する気だ」


「今は、虎太郎さんに甘えたいんです。それが、ユユの最後のご褒美です」


 俺は少し悩み、ユユの小さな手を優しく握り返す。

 柔らかく、少しだけ温かいユユの手。


「ありがとうございます」


「これで眠れそうか?」


「眠れなくても、これならいいです」


「電車で疲れているんだから、少しは眠れよ」


「虎太郎さんは? 眠らないんですか?」


「俺は、いいよ」


 緊張して、むしろ目が冴えてしまったとは言えない。


「……虎太郎さん、ユユと暮らして楽しかったですか?」


「何だよ、急に」


「漫画で、ファミレスはそういう会話をするべきって書いてありました」


「そりゃ余計なお世話をする漫画だな……、もちろん、楽しかった。ユユは?」


「ユユも楽しかったです。生きていて、一番楽しかったです。では、ユユが作った料理で一番美味しかったのはなんでした?」


「全部」


「……それはずるいです」


「でも実際、全部美味かった」


「褒められているような気がしません」


「じゃあ、ユユは?」


「パウンドケーキです」


「おい。それもズルだろ」


「でも作ってくれて、ユユは本当に嬉しかったです。虎太郎さんが作ってくれたという事実が、もはや魔法のスパイスです」


「ユユ、お前もギリ褒めてないだろ」


「――作ってくれて、ありがとうございます」


 ギュッと、ユユは手を握ってくる。

 トクトクと、手を通じてユユの心臓の鼓動を感じる。


「ユユ、幸せでした」


 俺は無意識のうちに、同じくらいの強さで握り返していた。


 頭では、もうわかっている。

 もう、終わりだ。

 こんな時間、ただの悪あがきだ。


 ――それでも。


 ずっと。いつまでも。


 ユユの手を握っていたかった。

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