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第18話 スリーポイントシュート

 タオルや水筒が置きっぱなしだと気が付き、俺とユユは学校を出る前に体育館へ寄ることにした。


 体育館では、バスケの授業が続いていた。

 生徒同士で試合が行われており、バスケットボールが弾む音とシューズが床をこする音が響き続けていた。


 見たところ、女子生徒しかいない。

 男子生徒はまた別の場所で体育の授業をしているのだろう。


「ユユー!」


 そこ抜けに明るい声が響き渡る。

 コートの外で試合を眺めていた美沙希が駆け寄ってきて、ユユに抱き着いた。


「ごめんね~! 私が内申点目的で委員会に入っちゃったばっかりに~!」


「み、みふぁきひゃん……くるひい……」


 美沙希の大きな胸に埋もれながら、ユユが何とか息継ぎして言う。

 美沙希の奴、ユユを殺す気か。


「美沙希、離してやれ。ユユが死にそうだ」


「ああ! ごめん!」


 美沙希がパッと手を離すと、「へ、平気です」と、ユユはフォローするように言った。


「美沙希ちゃんに抱きしめられるのも、ユユ、好きです」


 それを聞いた美沙希はパァと笑顔になり、「ユユ~! だーいすき‼」と、もう一度、ユユを抱きしめた。


「で、でも、みふぁきひゃん……ちょっふお、ちはらが……」


 ユユは抱きしめられながら、同時に苦しんでもいた。

 こいつら、学校でもこんな感じなんだな。


「橋本さん……」


 と、申し訳なさそうな声が二人の間に割って入ってくる。

 向くと、大柄の女子生徒が近寄って来た。


「ぶつかっちゃって、本当にごめん!」


 彼女はユユと目が合った瞬間、勢いよく頭を下げた。


「……大丈夫だった?」


「はい。ユユは大丈夫ですから。そんなに気にしないでください」


 その言葉を聞き、大柄の彼女はホッとしたように胸をなでおろした。


 ユユが怪我をしたと聞き、一瞬クラス内でのいじめを想像してしまったが、素直そうな奴でよかった。

 ……悔しいが美沙希もいるし、学校内まで心配する必要はないか。


「お兄さん!」


 大柄の女子生徒とユユが話しているところを遠巻きに眺めていると、美沙希が話しかけてきた。


「そういえば、まだお兄さんから連絡したお礼を言われてないね。えへへ! お兄さん、どんなお礼を言ってくれるのかなー⁉」


「……ドウモ、アリガトウゴザイマス」


「ついでに服を褒めてくれると嬉しいな!」


 と、言い、美沙希はその場でクルッと回転して見せてきた。

 ポニーテールでまとめた茶髪の巻き髪が、ふわりと揺れる。


「どう? 現役女子高生の体育着姿だよ! そそるでしょ⁉」


 そそるって、こいつ……。


「ニアッテマス、イイカンジデス」


「感情が籠ってないから、言葉だけ受け取るね! ありがと!」


 美沙希は当てつけのように満面の笑みで言った。


「お兄さん、ちゃんとユユにも言ってあげた?」


「あ? 何を?」


「体育着姿、可愛いね。制服も可愛いよ、ユユ……って!」


 前髪を手で靡かせ、美沙希はわざとキザっぽく言った。


「あ、ああ……」


 言ってない。

 というか、言うのを我慢していた。


「それは、悪手!」


 と、言い、美沙希が俺の手を取って握手をしてくる。

 なんだ、こいつ。


「それは悪手だよ! 言ってあげなよー。それが付き添う人の仕事なんだからさ」


「でも、俺に言われたところで――」


「あー。そういう、俺なんか……は、ダサすぎるから。そんなの関係なく、女の子は褒められたいもんなの!」


 そういうもんか?


「それに、言わないのはあまりにも無責任だよ」

「無責任? 何のことだ?」


 美沙希は俺の何かを馬鹿にするかのように、にひひと笑った。


「ちょっとは考えてみたら? どうして、ユユが隠れていたのか」


「お前っ、見ていたのか⁉」


「いや、予想だよ。ユユなら、やりそうだなーって。……お兄さん、ちゃんと考えないとダメだよ」


 美沙希が何を言いたいのか、俺にはよくわからなかった。

 しかし、その言葉は心の中で引っかかって聞こえた。


「橋本さん! お願い!」


 試合は中断している。

 ユユが女子生徒数人に言い寄られ、何やら懇願されていた。


「スリーポイント決めれば、うちのチームが逆転できるの!」


「負けたら、うちらがジュースおごりになっちゃう!」


「一回だけ! 一回だけシュートをしてくれたらいいから!」


 相手チームから「橋本さんはズルだろー!」というやじが飛んでくる。


 ユユと女子生徒たちの光景を、俺は不思議に思った。

 ……どうして、そこまでユユが重視されている?


「で、でも……」


 チラリと、ユユが俺の方に視線を投げかけてくる。


「俺のことは気にしなくていいから。やってやれよ」


 と、俺はシュートを打つように促した。

 もしかしたら、女子生徒たちは早退するユユを慮って言ってくれたのかもしれない。


「……わかりました。外してしまったら、ごめんなさい」


 そう言い、ユユはバスケットボールを女子生徒から受け取った。


「橋本さん! 頑張って!」


「バシッと決めちゃって!」


 声援が体育館に響き渡る。

 ユユはバスケットボールを弾ませながら、コート中央まで歩いていった。


 そして、そこでピタリと足を止めた。


 ――え?

 まだコートの半分だぞ?

 スリーポイントなら、もっとコートの近くへ寄って行っても……。


 ユユはボールを両手で掴み、膝を曲げる。

 そして、シュートを打つ。


 ボールは綺麗な放物線を描き、まっすぐゴールへ入った。


 体育館中に、歓声が響き渡った。

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