タイトル未定2026/03/23 20:52
翌日、夕方。
「誰! その"人達"!?」
東京都武蔵村山市の漆紀の自宅の玄関にて、真紀は困惑していた。
だが、それ以上に漆紀は真紀の声に驚いた。
「真紀、その声……」
「その後ろの二人は一体誰だって聞いてんのゴミいちゃん!」
ゴミとまで言われる謂れはないと漆紀は言いたくなるが、ぐっと抑えて後ろの二人、辰上夜巳と辰上天音の紹介をする。
「俺達のイトコだよ。辰上夜巳さんと、辰上天音だ。まあ、父さんの実家の人だよ」
真紀に会うという事で、夜巳だけでなく天音まで乗って来たのだ。
「意味わかんない! お父さんの実家?」
「ちゃんと説明するからとりあえず上がらせてくれ」
「いきなりイトコが生えてくるとか意味わかんないんだけど! 本当にちゃんと説明してくれる?」
「説明するから上がらせてくれ、暑い」
「わかった……」
真紀は漆紀達を受け入れ、ひとまず家に上げることにした。
夜巳と天音は日傘を閉じて家に上がる。
四人はリビングのテーブルに着くと、話を始める。
「えっと……あたしのイトコ? とりあえず自己紹介をお願いできます?」
真紀が夜巳と天音に自己紹介を求めると、まずは夜巳から口を開く。
「私は辰上夜巳、吸血鬼よ。お姉ちゃんって呼んでね真紀」
「呼びません気安く真紀って呼ばないで下さい。次、そこの金髪の方」
天音は自己紹介を求められると、席から立ち上がって右手を前に出して言い放つ。
「クククっ、我は辰上天音。またの名をフラルドーン・トレッカース! 平坦な夜明けを意味する名である! よろしく……えーっと……姉? 妹?」
「姉か妹かわかんねえのかよ! おい天音、お前何月生まれだ?」
「えっと、4月9日」
「真紀の誕生日は11月14日だから、天音の方が姉っちゃ姉だな」
「何の話してんのお兄ちゃん! そもそもこの人達を家族だなんてあたし認めてないし!」
「だからそれは説明するっての真紀……ああそうだ、あれ持ってきた方が早いか。ちょっと待ってろ」
漆紀は二階に上がり、宗一の部屋から日記を取り出し、リビングに持ってくる。
「父さんの若い頃の日記だ。これ見れば色々わかる」
「お父さんの日記? まあ、読むけど……」
真紀は漆紀から宗一の日記を受け取り、読み始める。読むこと二十分、重要な記述に当たり、夜巳と天音の方を見て指差す。
「この人達敵じゃんお兄ちゃん! なんで敵連れて来てんの!?」
「違うんだって! その件については不問というか解消されてるっていうか! とにかく夜巳さんと天音は敵じゃない! 恨んでないから!」
「……まあいいとするよ。でも、なんでイトコを連れて来たわけ?」
「いや、家族だし真紀と顔を合わせた方がいいかなって」
「……お兄ちゃんは受け入れてるかもしれないけど、私はいきなりイトコって言われても無理。なにこの人達。てかさっき吸血鬼って言ってたよね? 頭ラリってる?」
「違うぞ真紀。魔法の存在は認めるよな? それと同じように吸血鬼も実在するってだけだ」
「いや信じられないし……滅茶苦茶なんだけど。なんなのホント」
「真紀……でもこの二人は確かに家族だ。同じ辰上家だ」
「日記読んだけど敵だったワケじゃん。お母さんを誘拐したクソみたいな実家じゃん」
「それは先代の当主の時のことであって、夜巳さんはそんなことしないし」
「漆紀、いいわ。私が話すから」
夜巳は漆紀に制止を促すと、夜巳は自分の言葉で語り始める。
「真紀、私はあなたがどう言おうとあなたの従姉よ。そして私からすれば可愛い妹よ」
「いきなり初対面で可愛い妹とか気持ち悪いこと言いますね」
「……私は、父・言夜のしたことを許せないわ。あなたのお母さんに呪いをかけたこと、これは本当に酷いことよ……でもそれはそれ。私は、家族として、あなたと接したいと思っている」
「あたしは望んでないです。要らないです。家族はお兄ちゃんだけで十分です」
「全く、強情ね。まあ、そういうところがどこか可愛いんだけどね。真紀、魔法は使えるの?」
「使えない。でも、夢ならある」
「へぇ……目標があるのは良い事だわ。真紀、私の事をお姉ちゃんとは呼んでくれないの?」
「初対面で呼ぶわけないでしょ、頭おかしいんですか?」
真紀と夜巳はどうにも噛み合わないし相容れない。
「ふぅ……なら、決めたわ。私、しばらく真紀と一緒に過ごそうかしら」
「はぁ!?」
真紀はテーブルをダンと叩き立ち上がって困惑する。
「一緒に過ごせば少しずつ心の距離を縮められると思うの。ダメかしら?」
「意味わかんない。そんなこと」
見兼ねた漆紀が真紀に一言付け加える。
「真紀、どう言おうがこの二人はイトコなんだ、家族なんだ。いきなり心は開けなくても、少しずつ色々話してみたらどうだ?」
「色々って……まさか、二人ともウチに居候する気!?」
真紀が更に困惑の表情を見せると、夜巳と天音は頷く。
「一週間強くらい、お邪魔させて貰えない?」
「真紀、俺からも頼む。この二人は家族だ。打ち解ける機会くらい作ったらどうだ?」
漆紀からも理解を望まれると、真紀は数秒沈黙して考えた後、答える。
「わかった……だけど、ちゃんと家事はやってよね?」
真紀がひとまず許しを下すと、夜巳は「もちろんよ」と答え、天音は「任せてー!」と元気に返す。
「ところで真紀、その声、すごく綺麗で流暢だし、元の声に近いな。どうしたんだよ」
漆紀が真紀の人工声帯について問いかけると、真紀は自慢げにフンと鼻息を出す。
「人工声帯を取り換えたんだよ。元の声に限りなく近くなる人工声帯にね。それでいて機械音っぽい感じもあるから、なんとかロイドみたいな声でしょ」
「そうだな……まあ、声が綺麗になって良かったんじゃないか」
「うん……えっと、二人はまさか、今日から泊まる?」
真紀が夜巳と天音に問うと、二人は縦に首を振って頷く。
「ええ。まあ、明日になったら一旦埼玉に戻って着替えとか色々持ってくるけれど」
「今日はひとまずこのまま泊まらせて貰おう。ふふ……真紀、よろしく」
「じゃあ、俺は学徒会に戻るから」
「えぇ? お兄ちゃん学徒会に戻っちゃうの?」
「まあ、今はあっちで住んでるからな。仮の住まいだし何年も居る気はないけど」
「そっか……わかった。とりあえず、この二人を泊めればいいんだね」
「ああ……あっ、そうだ真紀。俺がとっておいた桃の缶詰は食ったか?」
そう、漆紀は真紀が入院して以来、彼女が買った桃の缶詰を食べる事無く保存しておいた。
真紀は右手を前に出すと、親指を立てて答える。
「うん、美味しかった!」
好物を食べたと答える真紀の顔は先程の曇りはどこへやら、明るく晴れた表情を浮かべた。




