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エピローグ

三日後。

漆紀は部屋で携帯電話を使い、夜巳と話していた。

『で、天音と真紀、チェスでどこまで縛れるかってことをやり始めて』

「アイツ意地張りすぎだろ……まあ、少しずつ打ち解けてるみたいで良かったぜ」

『といっても、世理架さんのところに魔法を教わりに行ってるみたいだけど』

「えっ!? 世理架さんが?」

『最近顔を合わせたみたいよ。で、自衛の手段をつけるために魔法を教わってるって』

「なるほど……あっ、それならさ、夜巳さんからもお願いするぜ」

『なんのこと?』

「俺は養子だけど、真紀は辰上家の血を引いてる。なら出来るだろ、固有魔法の理論武装。あれを真紀に教えてやって欲しい」

漆紀は養子だが、真紀は宗一と陽夜見の間に出来た実子であり、純粋な辰上家である。

つまるところ、辰上家の固有魔法である理論武装が使用可能なはずである。

『ああ、そういうことね。確かに出来るはずよ。そうね、それならちゃんと教えるわ』

「自衛目的なら、真紀に色んな魔法を身に付けさせるに越したことはねえ。だろ?」

『ええ。任せておきなさい。じゃあ、そろそろ夕食だから切るわね』

「おう、お疲れ様!」

漆紀はそう言って通話を終了すると、携帯電話を閉じる。携帯電話と財布をポケットに入れると、部屋の扉の前まで行く。

「んじゃ、行くか」

漆紀は部屋を出て、学徒会の本部に向かう。

本部内のエレベーターに乗り、八階の会長室へと向かう。

エレベーターから降り、漆紀は会長室の扉を開ける。

中央のテーブルの奥には席に着いて本を読む輝雷刀が居た。

漆紀と輝雷刀の二人きり。

「よう会長、予定通り来たぜ」

「ご苦労。大事な話があって君を呼んだ。恐らく……君は重要な情報を僕に隠していると思うんだ……例えば、竜王に関係することとか」

「っ!? まあ、言わないのもちゃんと理由があるんだけどな」

「僕が信用におけないと?」

「違う、本人のためでもある」

「ふむ……まあいい。先に僕の計画を話そう。一応、お嬢様から聞いたのかな?」

「夜巳さんからか? ああ、聞いたぜ」

「では確認でもう一度言おう。まず学徒達を率いて竜理市を取り囲み侵攻する。竜理教本部まで侵攻すれば、建物内の信者達は総出で対処してくる。そうすれば本部、竜宮はがら空きになり侵入が可能になる」

「侵入経路は?」

「空から。竜宮の屋上から侵入し、竜王の居る竜王殿へ辿り着く。どうだろう」

「まあ、やってみないと良い作戦かはわからねえよ。とりあえず、そういう作戦か。それで?」

「竜王を降す。そして竜王に人間宣言をさせる」

「でも徳叉迦竜王が自分を人間だって認めると思うか?」

「それが難しいと思う。だから、証明が要る。竜王が人間に過ぎないということ……」

「その証明方法は?」

竜王が神ではなく人間に過ぎないと証明する方法、言うのは簡単だが実際の方法は難しいだろう。

「一番シンプルなのは、竜王を殺す事。いわゆる神は死んだ、ってやつだね。徳叉迦竜王の死体を映して、竜理教信者達に所詮人間に過ぎないとわからせる。でも、これはちょっと良くないと思う」

「なんでだ?」

「竜理教の信者達が激高してかえって手が付けられなくなるからだ」

「ああ、なるほどな。そしたら他のプランは?」

「他はそうだね……竜王を説得するとかが平和的だね。とりあえず最初は話し合いを試した方が良いかもね」

「話し合いで、ダメだったら? 言っておくけど竜王ってのは何百年も生きてるような連中だぜ。こういっちゃなんだが、やっぱり竜王は人間じゃねえよ」

「初手の話し合いでダメだったら、さっきの殺すプランともう一つ……竜王を倒した上で、他の竜王を確保して竜王の人間宣言をさせるという案だね。ちゃんと負ける姿を見せた上で、人間に過ぎないんだと他の竜王に言わせる」

「それなら俺が……」

「確かに君は竜王だろうが、君は竜理教に対して大局的かつ政治的な発言力があるかい?」

「ぐっ、それは……ない」

漆紀は確かに竜理教に担がれ信仰の対象となる存在でこそあれ、竜理教内で発言力があるかどうかに関してはあまりないと言える。

「そこでだ。漆紀君、他の竜王についての情報……持ってないのかい?」

「……会長、俺が話す情報、秘密に出来るか?」

「作戦に組み込むかもしれないが、実行まで秘密を守ろう」

「……それなら言っておきたい情報がある」

漆紀はそれから世理架が竜王である事、徳叉迦竜王が致死の魔眼を持つこと、そしてマリーシャという竜理教の特別顧問が立案した徳叉迦竜王を殺したのちに漆紀が竜王として座して内部から竜理教を崩壊させる案も伝えた。

それらを一通り聞くと、輝雷刀はしばし考えてから言葉を出す。

「まずマリーシャという信者の案はないね。その女性が竜理教を変えたいと言っているようだけど、僕はそもそも竜理教という宗教組織そのものを排除したいんだ」

「だよな。となると……二番目のプランか?」

「そう、徳叉迦竜王を負かした上で、他の竜王に人間宣言させるというプラン……ところでその新南部さん、いつから竜王なのかわかるかい?」

「俺の予想でしかないけど、百年ぐらい前から……」

「で、竜王という身分を隠しているということは、行方不明扱いの竜王ということだね?」

「ああ。で、世理架さんは自分を和修吉竜王って竜王だと言っていた」

「……もしや、新南部さんは救世の竜王では?」

「救世の竜王?」

「ああ。戦前の日本で、東京を中心に貧困に苦しむ者や病気に苦しむ者のために活動していた竜王だ。炊き出しや募金、人道的な働きをしていたが、第二次世界大戦中に行方不明になった竜王だよ……確か、救世の竜王は和修吉竜王だという記述があったな」

「なんでそんなに竜理教を知ってるんだよ」

「こういう言葉を知らないかな? を知り、己を知れば、百戦殆うからず。敵を知り、己をしれば百回戦っても危うくないという意味だよ」

「なるほど。じゃあ世理架さんはその救世の竜王ってヤツなんだな」

「ああ。だからこそいい! 救世の竜王は今でも竜理教内では英雄扱いだ。生きていれば大きな発言力を持つ。いける、いけるぞ、人間宣言!」

「あとは世理架さん本人が協力してくれるかが問題だぜ。あの人は竜理教とはもう関わりたくないって嫌ってるし」

「ふむ……しかし、この作戦は竜理教を潰すための作戦だし協力してくれると思うがね」

「まだ聞いてみないとわからねえよ……で、作戦はいつやるんだ?」

漆紀が一番知りたいのは、いつ計画を実行するかである。

いつ、何万人もの学徒を動員して竜理市を攻めるのか。

輝雷刀はテーブルに両手を置いて、予定を語り出す。

「三週間後……やろう」

「おい、マジか。そんなすぐにもうやるのか」

「やる。既に手筈を調整中だよ」

「いよいよなんだな……日本の竜理教を潰す……」

漆紀は遂に竜理教を本格的に叩き潰す日が来るのかと、鳥肌が立つ。

「体が震えているよ?」

「武者震いって、こういうのを言うんだな……」

漆紀は村雨を召喚し、強く握ると天井に向けて振り上げる。

「ようやく来たな! もちろんぶちかましてやる。俺が必ず徳叉迦竜王を倒す!」

「ああ。徳叉迦竜王の能力を鑑みると、僕では殺されてしまうだろうからね。能力が効かない君が倒すんだ」

「ああ、任せろ!! 俺が必ず、竜理教を潰す!」

真紀のことも不安はない。

あとは竜理教を潰すだけである。

輝雷刀は漆紀を信頼し始めていた。

それは漆紀も同様だった。

二人の想いは、この時確かに重なっていた。

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