覚悟の問題
翌日、輝雷刀が交流会から抜けることになった。そろそろ学徒会に戻らなければならないとのことである。
輝雷刀が抜け、舞香は少し残念そうな様子を見せたが、交流会は続く。
場所はおごと温泉へと移動し、少し早いが旅館へとチェックインする。
おごと温泉は発展しており、大きな温泉街であった。行楽には事欠かない街並みである。
部屋に入り、漆紀はひとまず荷物を置く。そして財布と携帯電話を持って旅館のエントランスへ出る。
既にエントランスには漆紀と同様に荷物を置き終えた彩那と小太郎がエントランスで待っていた。
「待っておりましたぞ漆紀殿」
「じゃあ温泉街を回りましょうか竜王様!」
「結構デカイ温泉街だし色々ありそうだな。行こう」
三人はおごと温泉街を歩き始めた。夏に温泉というのは少々暑苦しい気もするが、裸で入るので気温の暑さはそれほど気にならないので問題ない。
しかし温泉街だけあって、街自体には暑苦しさを感じざるを得なかった。
足湯に温泉卵、温泉饅頭、夏の気候のなか歩く漆紀達にすれば暑さを感じるばかりの言葉である。どこか涼しさはないのかと歩いていると、喫茶店を見つける。
その喫茶店はアイスやかき氷を提供している店であった。
「ここに入るか?」
「暑いしここにしましょうよ!」
「ですな。ここがいいでござる」
三人は喫茶店に入ると、素早くメニューを決めて注文する。
アイスやかき氷は勿論だが、せっかくなので暑苦しさは感じるが温泉卵と温泉饅頭も注文する。
しばし雑談をしつつ待つこと二十分、全てのメニューが出揃う。
漆紀達は温泉卵と饅頭はそれぞれ分けて小皿に置く。
「で、そういうわけで拙者はエロフィギュアを……」
「おいそんぐらいにしとけ、キモすぎだ小太郎」
「そもそも女の子の前でエロフィギュアの話する時点でだいぶヤバいですよキモオタさん」
「拙者今更そんなこと気にしませぬ」
一目など気にしないと言う小太郎だが、この前の福井県での件を思い出して漆紀は曇り顔で小太郎に問う。
「それ、あのネルとかいうヤツの前でも同じ事言えるのか?」
その一言で、場の空気が変わった。いや、漆紀が場の空気を変えたと言える。
「おい、あのことは別に許してねえぞ。お前それに対する答えは当然考えてんだろうな?」
漆紀が半ば追い詰めるように問い詰めると、小太郎は「もちろん」と答える。
「ネル殿の前では格好つけさせて貰うでござるよ」
「馬鹿か……俺達はそのうち竜理市にも攻め入る。おそらくそこにはネルも居るそれでもお前、あいつを殺さずにどうするってんだ?」
「説得します」
「相手は竜理教の信者だ、教えがある。説得でどうこうなると思っているのか?」
「拙者はなんとしてもあの人を味方につけるでござるよ」
「……馬鹿がよ。俺が先にヤツと会ったら、俺が殺すかもしれないぞ?」
「それはダメでござる」
「わがままなヤツだ。敵を敵と割り切れねえのかお前は」
「一目惚れでござる。それの何が悪いでござるか」
漆紀と小太郎の言い合いは平行線である。まるで交わらない、そして合わない。
「まあまあお二人とも。あのネルという魔法使いについてはひとまず置いて」
「置いてどうなる。やつら竜理教とぶつかる以上は、ネルとも戦うことになるだろ。どのみち結論付けておく方がいいに決まってる」
漆紀が冷静にそう言うと、小太郎は悔しそうな様子で「それはその通りでござる」と呟く。
「でも、拙者はネル殿を竜理教から引っ張り出すでござる」
「どうやって? 俺が宮田を殺したことで、アイツはより一層竜理教に傾倒してると思うぞ」
「だから、拙者が説得すると言っているでござる」
「どうやって? どう説得すると? まさか口説くか? やってみろ、相手は宗教女だぞ」
「あの、それ私にも当てはまるんですけど」
「彩那はちょっと黙ってろ」
「やれるだけをやってみるでござるよ」
「具体案を示さないとはな、お前マジで忍者かよ。無計画にもほどがある」
「漆紀殿に無計画とか言われたくないでござるな。拙者、本気でござるよ」
「恋は盲目、人間を馬鹿にする。お前馬鹿になってんだよ小太郎。その馬鹿の末に死んでも良いって言うのか?」
「拙者の勝手を許して欲しいでござるよ」
「馬鹿か……マジで死んでもしらねえぞ」
そう言って漆紀はソフトクリームを一口食べる。
「まあキモオタさんだったら死んじゃっても……」
「彩那嬢、辛辣すぎませぬか?」
「お前はそんだけ馬鹿な事をやろうとしてるって事だ。もうその馬鹿さ加減には言葉が出ねえよ。死んだって仕方ねえぞ、小太郎」
漆紀は睨みを利かせながら、小太郎にそう言い放つ。
「死んでも、ネル殿はなんとかするでござるよ」
「……そういう事ならいい。学徒会が竜理市を襲撃すれば、ネルは竜王の警備に回るはずだ。必ずぶつかる……小太郎、やるならやるで覚悟を決めておけ」
漆紀が覚悟の準備をしておけとばかりに言うと、小太郎は「無論でござる」と間を置かずに答えた。
「あ、温泉卵案外おいしいですね」
「……」
「……」
彩那は頬を緩ませて温泉卵を食べる。それを見ていると、漆紀と小太郎はネルの件については考えまいと思い始めた。
「俺らも卵食べてみるか」
「それが良いでござるな」
漆紀と小太郎は温泉卵を手に取った。




