ビーチバレーは雰囲気でなんとなくやるもの
漆紀はいつも通り彩那、小太郎と動くことになった。コテージは一棟につきマットレスと寝袋を含めて四人ほど入れるようになっていた。
コテージは浜辺からそれほど離れておらず、窓からは浜辺が見える。
つまり漆紀達のコテージにはあともう一人入って来るわけである。
入って来たのは順当に夜巳……ではなく心が読める石火矢陽菜であった。
夜巳は輝雷刀と集まりコテージに入った。
漆紀達はコテージ内のエアコンを点けて、今からどうするか話し始める。
「さて、どうする?」
漆紀が三人に問うと、小太郎が眼鏡をくいっと上げてすぐに答えを返す。
「無論、水上アクティビティをやりましょうぞ!」
彩那がその声に「やっぱりそれですよねぇ!」と好反応を示す。
陽菜もうんうんと頷いて「折角浜辺に来たしやろうよ」と乗り気を示す。
「んじゃ、水着に着替えるか。彩那と石火矢さんは二階を使ってくれ」
そう言うと彩那と陽菜は荷物を持って風呂場へと移動する。
漆紀達は一階で着替える。漆紀と小太郎は海パンを履いただけの一般的な男の水着姿であった。唯一馴染めないのは、小太郎が眼鏡を外しているということ。
少し待つと彩那と陽菜が水着を着て降りて来る。
「じゃあ行こっか!」
陽菜が紺色のパーカーのようなタイプの水着を着てそう言うと、漆紀と小太郎は「もちろん」と答える。
彩那も陽菜と似たような水着でピンク色のパーカーのような水着を着ていた。
四人はコテージを出て、浜辺を歩くが。
「砂浜熱っちぃ! や、やっぱビーサンいるんじゃねえかコレ!」
「いや、水上アクティビティやるとなるとビーサン履いてると飛んでっちゃう恐れがあるので履かない方がいいですよ竜王様」
「じゃあ水上アクティビティの受付まで走るでござるよ」
四人は受付まで走り、受付の小屋にいるスタッフに声を掛ける。
「あの、学徒会の者なんですけど。水上アクティビティ、どんなのありますか?」
陽菜がスタッフに問うと、スタッフは様々なアクティビティが載った紙を見せる。
「団体様だとオススメはバナナボートですが……」
「じゃあそれでお願いします!」
「えっと、バナナボートは黄色いやつのところなので、近くのスタッフに声をかけて下さい」
そう言われ、漆紀達は黄色いバナナ形のゴムボートの近くまで行く。
波打ち際まで来ると、立っていた男性スタッフに陽菜が話をつける。
そして漆紀達はバナナの形をしたゴムボートに乗っていく。一番先頭が漆紀、その後ろが彩那、更に後ろが小太郎、最後尾は陽菜だ。
ゴムボートは水上バイクと繋がれており、男性スタッフは水上バイクに乗る。
「では出発しますよ。しっかり掴まって下さいね!」
ゴムボートには取っ手があり、その取っ手にしっかりと四人は掴まる。
水上バイクが進み出し、徐々にスピードが出て行き浜辺から離れていく。
風と水しぶきが、漆紀達の顔にぶち当たる。
「すげぇ! 気持ち良いなこれぇ!」
漆紀は水しぶきなど気にせずそう感嘆の声を漏らす。
「風が気持ち良いですね竜王様!」
「え、拙者は吹っ飛ばされないように掴まるのが精一杯でござるううぅぅぅぅ!」
「いやっほおぉぉ!」
彩那は漆紀への同意を示し、小太郎は悶絶の声を、陽菜はテンションマックスの声を上げた。
水上バイクはくるっと六十度ほど曲がり、バナナボートは慣性の法則に従って急カーブし、四人の体に大きな負荷がかかる。
「おおお! ぶっ飛ばされる!」
「凄いいぃ! 竜王様ああぁ!」
「飛ぶ飛ばされる!」
「いやっふううぅぅぅ!」
漆紀と彩那はかかる負荷を必死に耐え、小太郎は今にもぶっ飛ばされそうになっていた。
陽菜はどこかの配管工兄弟みたいな声を上げ、負荷すら楽しそうにしている様子だった。
「まだまだですよお!」
男性スタッフがそれからも何度かカーブを繰り返して漆紀達を振るい落とすかのような動きを見せた。激しく揺さぶられるが、四人は決して酔う事はなく水しぶきと風、そして負荷を楽しんだ。
そうしているうちに十分が経過し、男性スタッフは水上バイクを浜辺に向け、走行させる。
浜辺に着くと、漆紀達はようやく地に足つける。
「十分間落ちずにお付き合い、ありがとうございました!」
男性スタッフが満面の笑顔でそう言うと、漆紀達も思わず笑みが零れる。
「さて、次はどうするか」
漆紀が次の行動を考えると、陽菜が「そんなの決まってるでしょ」と自信満々の顔で言う。
「ビーチに来たんだしビーチバレーでしょ! コートもボールも借りれるしやろうよ!」
「ビーチバレーやるにはもう少し人数要るかとおもいますぞ石火矢嬢」
小太郎がいつもの癖で眼鏡をくいっと上に上げようと手を動かすが、眼鏡がかかっていない事を思い出して右手を引く。
「そうだねー……会長たちでも誘おうか」
「会長たちがどこにいるやら」
「とりあえずコテージに行ってみたらどうですか?」
漆紀の疑問に彩那が尤もな答えを出す。
「よし、会長たちのコテージに行くか」
四人は輝雷刀の居るコテージへ移動すると、ドアをノックする。
「会長、居るかー?」
数秒待つとコテージ内から足音が聞こえたと思うと、海パンを履いた水着姿の輝雷刀が扉を開けて出て来る。
「おっとなにかな? 今中で調理中だったんだけど」
「いや、ビーチバレーやろうと思ってさ。人数足りないし会長たちを誘おうってことで」
「なるほど。いいよ、とりあえず料理を作り置きしておくからちょっと待って欲しい」
漆紀達はコテージ内に入りしばし待つ。待つこと十五分、料理を終えた輝雷刀と舞香、ブライアン、吉果がやって来る。
「じゃあ、行こうか」
輝雷刀がそう口火を切ると、ブライアンが拳を合わせて力強く言い放つ。
「ビーチバレーか。楽しそうだナ」
ブライアンも輝雷刀と同じく海パン一丁であり、彼は見事な筋骨隆々の体を見せていた。
「ビーチバレーね。まあ、せっかくビーチに来たし良いと思いますよ会長」
あくまで会長に付き添うように舞香がそうそっと言う。舞香は彩那や陽菜と違って上はブラのような水着、下はパンツ状のものとスカート状のレギンスを着ていた
「ふへへ……もちろんビーチバレーは……そりゃやるか……」
吉果は彩那や陽菜のように紺色のパーカーのような水着を着ており下はシンプルなパンツ状のものであった。
「っし、行くか」
計八人はビーチバレーのフィールドへと移動すると、ボールを借りて始める。
「どっちが先攻にすっか?」
漆紀が輝雷刀が問うと、輝雷刀は「どうぞ、そちらから」と譲る。
「わかった、じゃあ行くぞ!」
漆紀は輝雷刀からボールを受けとり、空中に打ち上げると、輝雷刀達のエリアにいきなりシュートする。
「ふひっ!」
吉果がボールの行き先に瞬間移動すると、ボールを両手で打ち上げてバウンドさせる。
「会長!」
舞香が両手を組んでそのボールをもう一度打ち上げると、輝雷刀がシュートを決めるべく飛び上がる。
「飛ばしていくよ!」
輝雷刀は能力を使ったのか、豪速のシュートを漆紀達のエリアに落とす。
漆紀達は反応しきれず、一点取られる。
「うわ、能力使うのかよ! クッソ、じゃあ俺も魔法を……」
「竜王様、そんな安易に人目で魔法使わないで下さい!」
「ぐっ……能力は目立たないから良いよな」
「会長たちはチート編成ですな。こりゃ勝てなさそうでござるよ」
それからも漆紀達はビーチバレーを続けたが、毎回毎回輝雷刀が豪速でシュートを決めて点を取られるばかりである。いい加減負けの点数まで来てるのではと思って漆紀は輝雷刀に問う。
「なあ会長、そろそろ俺達負けか? だいぶ点数取られてるし」
「ふふふ……僕達はビーチバレーを雰囲気でやっている」
「え? それってまさか……」
「そう! この中の誰も! ビーチバレーのルールを知らないのである!」
「そんな消防車を呼んでいないのである! みたいに言われてもな! てか雰囲気でやってるのかよこれ!」
「ビーチバレーなんてそんなものだろう。さあ、続きをやろうか!」
「絶対会長が勝ち続けるじゃねえかコレぇ!」




