竜王の力
漆紀は部屋に戻るとシャワーを浴び、着替えてからコインランドリーに洗濯物を入れた。
それから夕食を摂りに二階に降りた。夕食時、また舞香達学徒会メンバーと他愛ない雑談をし、漆紀は食事を終えると大人しく部屋に戻った。
部屋に戻ると、漆紀は最初こそテレビを見て退屈を凌ぐが、テレビをつまらないと思うと途端にすることが無くなった。
「……話すか」
漆紀はベッドに寝そべると、村雨を取り出し胸の上に乗せる。
「ムラサメ、聞こえるか」
『なに?』
ムラサメとの雑談をしようと考えたのだった。ムラサメは間を置かずに答え、漆紀は話題を振る。
「最近竜夢ってのをよく見る。お前、竜夢って知ってたのか?」
『……知っていた。ただ、いきなり見始めるとは。はあ、隠し事は上手く行かないものね』
「あんなもん隠してどうすんだよ。とんでもない夢ばっかだぞ、ったく」
『それも知っている。私もその夢を見た』
「なんだよ、お前も見てたのかよ。どう思った?」
『ずいぶんとモテるようだね。それでもあなたは、誰かと結ばれる気は』
「あるけど今はない。竜理教を潰すまで、そんな気になれねえよ」
『そう言うと思った。しかし、将来の事を少しは考えてもいいのでは? もっとも、あなたに将来があればの話だけど』
「どういう意味だ?」
どこか含みのある言い方をするムラサメに漆紀は首を傾げつつ村雨を見つめる。
『竜王の力は、あなたのものじゃない。あなたが今まで竜王として扱って来た力の全ては、私の力』
「なに?」
『そもそもおかしいとは思わなかったの? 竜王と化すとき、あなたは毎回私に有無を聞いて、私の承諾を得て竜王化している。あなた自身は竜王じゃない。鉄の首飾り、私自身が竜王よ』
「なにを言ってんだよ、ムラサメ?」
漆紀はわけがわからなかった。今まで自分の力だと思っていたものが、全てムラサメの力だと言うのか。
『私は……竜理教から逃げのびた八大竜王の一柱・娑伽羅竜王。あなたの力は、全て私の力よ』
今まで戦いで使って来た竜王の力は全てムラサメの力だったという。しかし、漆紀はそれを聞いてもさして衝撃を受けることはなかった。確かにムラサメが竜王だというのは衝撃的ではあるが、腰を抜かすほどではない。
ただあるのは疑問である。
「それで、将来があればどうこうとどう繋がるんだ?」
『歪な形であなたは竜王の力を使っている。故に、あなたの背には既に竜のたてがみが生えつつあるでしょう?』
「え?」
漆紀は背中に手を回してみると、とても短いが確かに竜のたてがみのような毛が伸びている。
『このまま竜王化を使って行けば、あなたは完全に竜になり、人の形を保てなくなる』
「はぁ!?」
人でなくなるとまで言われて、漆紀はようやく驚愕の声を上げる。
『人でなくなるのよ本当に。本当に竜そのものになってしまうわ』
「……へっ、今まで散々警告してきたのはそういうリスクからか。わーったよ。ったく、面倒臭いことしやがって……それともう一つ疑問なんだが」
『なに?』
「なんで竜王のはずのお前は、鉄の首飾りになって、しかも刀になってるんだ?」
『それは言えない。なぜなら私は●●●●●●●●』
「え?」
『だから●●●●●●●●』
「聞き取れねえ……」
『やはりね。検閲がかかってるみたい』
「検閲って誰の?」
『だから●●●●●●●●……ああ、ダメみたい。やっぱり伝えられないようね』
「……そうか。無理ならいい。俺自身は本当に竜王じゃないのか?」
『悪いけど、あなたからは竜王の力は感じ取れない。かといって人間っていう感じじゃない』
「なんだそりゃ」
漆紀はわけがわからなくなっていく。自分は一体なんなのだと、疑問が止まらない。
「まあいいや。しかしまあ……徳叉迦竜王を仕留めるまでは竜にならないようにしねえとな」
『どうでしょうね……』
「けっ、案外お前とも話す事がないな……早いけど寝るか」
漆紀は村雨を霧散させると、ベッドに寝そべったまま目を閉じる。
「……」
漆紀は心の中で、状況を整理する。自分自身は竜王ではないと、ムラサメが断じたが本当にそうだろうか?
漆紀の出生は特殊だ。それゆえに、本当に自分は竜王ではないのかと悩む。ムラサメの言葉、どこまでが本当なのだ? 本当に自分は竜王ではないのか? と。
「あーもう、考えても仕方ねえ。寝よ寝よ」
漆紀は体の力を抜き、その意識を手放した。




