佐和山城にて
翌日。
交流会三日目、漆紀と舞香とレグナは佐和山城へと登城していた。
佐和山、というだけあって本丸へ行く道は山道でありちょっとした登山であった。ハッキリ言って、彦根城よりも険しい。
石段を登って、漆紀達は本丸を目指すが。
「はあ……はぁ……彦根の比じゃねえな……なあ、月守先輩、レグナ。俺空飛べるから飛んでっちゃっていいか?」
「ダメに決まっているでしょう辰上君……そんな能力があるとしても、人前で飛んではいけないわ」
舞香の言葉に、レグナも頷き返す。
「空飛んだら、SNSに晒されるぞ。そんなこともわからないのかFucking Jap」
「けっ……しゃーねえ。普通に上るしかねえか……それと……」
漆紀は一番後ろへと視線を移す。一番後ろには、昨日会ったばかりのマリーシャが居た。
「あんた……なんで付いて来るんだ?」
「暇なんで同行させて下さいよ竜王様。わたくし、やることなくて暇なんですよ」
「大好きな布教活動でもしてりゃいいじゃねえか」
「うーん……既にこの辺の界隈では布教活動をして出禁になってますし」
しれっと出禁にされている旨を話すマリーシャに漆紀はロクでもないヤツだと思うばかりであった。
「とにかく、上って行くしかねえぞ。キツイけどやり始めたからには登りきるんだ」
漆紀達はその後、黙々と石段を登って行き、やがて天守のある本丸へとやって来る。
天守は五階建てで、非常に大きく見える造りになっていた。
「でけえな、彦根城よりデカイ……この城も国宝だっけか?」
「そうね。佐和山城も国宝認定されている城よ。間違っても迷惑行為なんてしないようにねレグナさん」
舞香が予めレグナへと釘を刺すと、レグナはナイナイと首を横に振る。
「でも昨日お前彦根城の天守から飛び降りようとしたじゃねえかよ」
「……もうやんないから」
「さて、早速天守に入るか。行くぞ行くぞ」
漆紀達は天守に入り、順路に進む。急ゆえにもはや梯子とも思えるような角度の階段を上がって行き、五階の天守閣へと一行は辿り着く。
五階の天守閣は廻縁が開放されており、景色が余すことなく見れる造りになっていた。猛暑の夏だが、どこか涼しい風が空から天守閣へ吹き抜けていた。
天守閣はそこそこ人が居るが、平日なのもあって混雑というほどの混み具合ではなかった。
漆紀達は琵琶湖側が見渡せる方面の廻縁に出て、琵琶湖を見渡す。
「山だからかこっちの方が彦根城より心なしか景色が綺麗に見えるな」
「そうね……ん?」
舞香はレグナとマリーシャの方を見る。マリーシャがレグナの手を取っていた。
「レグナさん、同じ海外勢同士でちょっと話し込みませんか?」
「……いいだろう。向こうで話そう。舞香、Jap、ちょっと行って来る」
「ええ、行ってらっしゃい」
「いい加減ジャップやめてくんねえかな……」
レグナとマリーシャが反対側の廻縁へと移動し、琵琶湖側の方に残った漆紀と舞香は高欄に両腕を乗せて景色を見る。
「ねえ辰上君。あなたは本当に、竜理教を滅ぼせると思う?」
「思うどうこうじゃねえ。やるんだ……そのために、俺は会長に協力してんだ。利害一致てヤツだな。俺は、父さんを奪った竜理教を許しはしない」
漆紀は宗一の死の瞬間を、鮮明に脳裏で思い浮かべる。今もまだ、その光景は頭の中にこびり付いている。宗一が宮田の使った精霊術により、恐竜の尾で叩き潰されるあの音と振動。
何度も何度も、恐竜の尾を叩きつけられ原型が無くなるほどに潰された事を。
「ねえ、あなたの家族って……どうなってるの? 話したくない事かもしれないけど、話さないとお互いの心は開かないと思うのよ。もし良かったら、私に話してくれないかしら」
「……」
漆紀は悩む。ここで軽々しく話したら、宗一の死が安っぽくなり意味のない無駄死にになってしまう気がした。
その気持ちを、正直に話すべきだろうか。話したらきっと、舞香とは引くに引けない深入りした関係になってしまう気がした。漆紀は舞香とそんな深い関係になりたいかと言うと、そうは思っていない。あくまで同じ目的の為に動く協力者同士で居たいと考えていた。
「悪いけど、話せない。話したら……俺の家族が無駄だったように思えてしまう。それに、それを話したら、月守先輩と関係が深くなってしまう気がする。俺達は竜理教を潰すって当面の目標の為に動いてる協力者同士だ。それ以上の深い関係になりたくない」
漆紀がそう言うと、舞香は「はあ」とため息を吐いてから馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに笑んで答える。
「あなた、もしかして暗い過去や壮絶な過去を語れば相手が同情して好きになってくれるとでも勘違いしてるの? 恋愛経験のないド童貞の発想ね。あなたが家族の事や過去の事を話したところで深い関係なんかにならないわよ。私が好きなのは会長だから」
そう語る舞香だが、漆紀は見ているのだ。竜夢というありうる可能性の未来を見せる夢で舞香と結ばれている未来を見ている。舞香とはそういう関係になる可能性があるということだ。漆紀はそれを望んでいない。
確かにいずれは誰かと結ばれたいという気持ちはあるが、今誰かとそうなる気はないのだ。舞香に対してそういう気持ちがあるのかと問われれば、現段階で答えはNOである。
「あんたにはわかんないさ。そうだなぁ。正直に話せばいいですかい?」
「ええ、そうよ。正直に話して心の内を明かす事で、友好を深める。この交流会は仲を深めるのが目的なんだから」
「じゃあ言うけど……俺が竜王っていう竜理教が崇めてる御神体なのはもうわかりましたね?」
「ええ。あなたは竜王という御神体……それで?」
「俺には、どうやらありうる可能性の未来を夢で見る力があるらしい。竜夢って言うんだ」
「ありうる可能性の未来?」
「そう。例えば、誰かと結ばれたり、誰かに殺されたり、そんな可能性の未来を、夢で先読みしてしまう力が竜王にはあるんです」
「それがなんだというの?」
舞香はいまいち話が見えて来ない様子であった。漆紀が何を言いたいのか、その意図が掴めなかった。
「ありうる可能性……その中にな……あんたは怒ると思うが、あんたと結ばれる未来が見えたんですよ」
「はぁ? 私があなたと? 酷い話ね、ありえないわ」
「だろ? 俺もありえねえと思ったんですけど……その夢で見たから、あんたがヤクザの組長の娘だってことも知ってんですよ」
「ッ!?」
舞香はアルミニウムハンマーに手をかけて警戒する。
「言っただろ、ありうる可能性を見るんだって。その中で映された事実は真実だ。あんたがヤクザの組長の娘だってのも、事実なんでしょ?」
「……認めたくないものね。私がヤクザの娘だなんてね。会長にすら隠しているというのに」
「あんたと組んで反社をまとめ上げて、内部から崩壊させて会長の得になるように動く夢を見たんですよ。その末路を語ると……あんたは死ぬ。そして俺はギリギリのところで会長に勝つ。本当に酷い夢だった、あんたが死ぬなんてな……それも、会長に殺されるなんて」
「会長に!?」
舞香は漆紀の竜夢の事を信じている。というのも、自身の能力も荒唐無稽だが実在する能力ゆえに、特殊な能力について疑いや抵抗がないのだろう。
「そうだ。あんたは俺と……組んだら、会長に殺される。それは言っておきます」
「そうね。結果的に内部から反社を崩壊させようが、反社を利用して多くの犠牲を伴えば会長は私ですら殺すでしょうね……納得いくわ。そうなのね」
「ありうる可能性なんだよ、それは。だから俺は……あんたに心を開きたくないんですよ。あのありうる可能性に、行き着いてしまうんじゃないかって、不安になるんです」
漆紀が見た舞香との未来。それは舞香と結ばれたものの、輝雷刀とは敵対するような立場や計画となり、輝雷刀に舞香が殺されるという未来。
「わかったわ。それなら、あなたのことなんて絶対に好きにならないし意識もしないわ。そもそもあなた、自分がモテるとでも思ってるのかしら、痛い男ね」
「そう思うだろ? でも竜夢はありうる可能性を拾って夢に見せるんだ。あんたがコロッと俺に転がる未来もあるワケです」
「ふふ、それを意識すれば、あなたを好きになることなんてないわ」
「ならいい。あと……あんたは竜理教に攻め入る時は参加するんじゃねえぞ」
「え? それはどうして?」
漆紀が竜理市への侵攻に参加するなという所の意味が舞香には理解出来なかった。
「竜理教はとんでもない魔法を使って来る。あんたの能力じゃ対処しきれないですよ。多分、あんたが魔法使いに挑んだら死ぬと思う。それぐらい奴らは強い、あんたは参加しない方がいいです」
「私が役立たずだと? 舐められたものね……私には最終兵器があるというのに」
「最終兵器?」
舞香の言う最終兵器とは何なのか、本当に魔法使い相手に通用するものなのかと漆紀は首を傾げる。
「私の最終兵器……AlFA。通称アルファよ。重厚なアルミニウムは銃弾すら止め、火や雷だって防ぐわ」
「アルミニウムフルアーマー……だとしても、竜王が最後には控えてる。あんたじゃ死ぬぞ。別に俺は、あんたに特別な感情とかはない。だけど、俺の手の届く範囲の人が死ぬのは嫌だ」
「……そこまで言うのなら、良いわよ。自分の分を弁えるのも実力の内よね。いいわ、竜理市への侵攻には参加しないわ。その代わり、あなたは戦果をちゃんと上げてよね」
舞香が漆紀に竜理市侵攻の際の戦果を強く求めると、漆紀は口元を緩めて答える。
「ああ、勿論だ!」




