夕食~ristorante~
「はっ!?」
漆紀はベッドの掛布団に宿った自熱に目を覚まされる。
起き上がって時刻を確認すると、午後六時五十四分を示していた。
「大して寝てないってのに随分と長めの夢を見たもんだ」
ベッドから出て、立ち上がる。
「ケータイと財布とルームキーを持って……よし、行くか」
漆紀は部屋を出て、先程の夢を振り返る。
(本当に竜夢は見境なしだな。俺がレグナと? 悪い冗談も大概にしろ、悪夢だよ悪夢。ありうる可能性だぁ? ふざけんなクソ)
漆紀はエレベーターで二階に降りて、食事会場へと移動する。そこはビュッフェ形式で、テーブルには腹を空かせた宿泊客達が歓談と共に食事を摂っていた。
その宿泊客の中にはレグナも居た。他にはアフリカ系アメリカ人のブライアン、心が読める陽菜が居た。
輝雷刀や彩那は居なかった。
漆紀はビュッフェでいくつかの食事をプレートに乗せると、ブライアンや陽菜と話しているレグナの隣に座る。
「俺も混ぜて貰えるか?」
レグナは「なんで隣に来るんだ」と言わんばかりに眉を顰める。しかし陽菜は笑顔で「いいよいいよー」と漆紀を歓迎する。ブライアンも「ヘイブロ、よく来たな」と軽快に迎え入れる。
レグナ以外は漆紀に対してフレンドリーであった。
「さてと……俺らは今日ちょっと問題があった」
「ああ、レグナちゃんから聞いたよー。竜理教が襲撃してきたってー?」
陽菜が大して重大には思わないような様子でそう言うと、ブライアンは腕を組んで「カルトか」と一人頷く。
「うーん……ねえ辰上君。君ぃ、なんかモヤっとしてるねぇ。どうしたのかな? 心読んじゃうよぉー?」
「おいおい!」
漆紀は身構えるが、陽菜はそんな身構えなど通り抜けるかの様に漆紀の心情を読む。
「ふんふん……へぇ、この感じは……なにかとんでもない物を見たみたいだねぇ。わたしはフィーリングも込みで心を読んでるからね。今の君はそうだねぇ……レグナちゃんに変な意識を向けてるね」
「おい!」
「うっ!? なに考えてるFucking Jap!」
「違う!」
「あ、今ちょっと恥ずかしい事を思い浮かべたみたいだね。へぇー……」
陽菜がそう言うと、レグナは漆紀の胸倉を掴んで揺らす。
「ナニを考えた! おい、Fucking Jap!」
「誤解だ! 変な夢を見ただけだ! でも所詮夢は夢だから気にしても仕方ねえし!」
「Hentaiな夢を見たなああぁぁぁ! 何となくイカ臭い気がすると思ったら!」
「気がするだけじゃねえかオイ!」
「おいおい二人ともSit down Sit down」
ブライアンが両手を伸ばして漆紀とレグナの間に割って入る。
ブライアンの太い腕による制止を受けると、レグナはしぶしぶ引き下がる。
「おいおい石火矢さんだっけ。あんた心を読むのは良いが余計な事を言うのはやめた方がいいと思うけどな」
「まあまあ。さて、なにを話そうかな……思えば、辰上君とあの竜蛇ちゃんって魔法使いなんだよねえ?」
「……魔法使いの存在は、あんたら能力者と一緒で大っぴらには出来ないんだ。あまり話せることはないな」
「ふうん。心が読めるわたしの前でそう言うの? 随分とまだ隠してる事があるみたいな心情だけど……おおっと、お怒りとは。何か都合の悪いことでもあるのかな?」
「魔法使いの事に関してはあまり聞かないでくれ石火矢さん」
漆紀が魔法使いの情報に関して黙秘すると、陽菜は「仕方ないなぁ」と漏らしてから違う話題を振る。
「じゃあ、君の魔法……教えて貰おうかな」
「手の内を他人に明かせと?」
「あらら、もしかしてわたし達に教えたくないの? それって今後敵になる可能性を考えてるって事だよね?」
「俺は学徒会に対して全幅の信頼を置いてるってわけじゃない。最悪状況によっては会長とやり合う事になるかもって警戒してるだけだ」
「そんな事にはならないと思うけどなあ。会長は君に敵対するようなことをしないと思うけど」
陽菜は漆紀に輝雷刀は敵にならないと説くが、漆紀としては竜夢で輝雷刀と敵対する未来を見ているので、あり得る可能性として最悪の場合も想定している。
「オレも会長なら大丈夫だと思うぜ。反社になるとかしない限り、会長はお前をどうこうしようとはしないと思うぜ」
ブライアンも漆紀にそう述べる。そう、輝雷刀は反社を敵と見なしている。反社というか暴力団になった未来の夢で、漆紀は輝雷刀と戦うことになった。
ありうる可能性の未来を見た以上、漆紀は油断できない。
「俺は最悪の場合も想定しておく……まあ、そうならないのが一番だが」
そう言って漆紀は鮒ずしを一枚取って口に含むが。
「うわ酸っぱ! なんだこれ、寿司って言うから取って来たのに!」
「あー、鮒ずしね。それは酸っぱいし独特の味がするから人を選ぶよ」
「寿司って言ったら普通の寿司を思い浮かべるだろ……酸っぱさが普通じゃない……うげぇ、でも取った以上は食わなきゃ」
漆紀は水を一口飲んで食べかけの鮒ずしを口に含む。
「ま、わたし達と敵対してしまうかもしれない未来も考えているということだね。まあいいや、もっと楽しい話をしよう。何か君からわたし達に話したい話題はあるかな辰上君」
「話してもいい話題か……そうだな、俺ん家は便利屋をやってんだ。だから便利屋の仕事の話でもしようか」
そう言って漆紀は便利屋タツガミでの話を話し始めた。




