マリーシャ・シャロランテ
漆紀達は城下町から離れて、彦根駅東側へと移動した。
西側の城下町方面と比べると、少し寂れた空気感があった。
漆紀達は夕方までの残り時間を城下町ではなく、東側の街で過ごそうと考えた。
そうして三人はどこか喫茶店にでも入ろうと歩いていると。
道の正面から竜理教の夏服を着た二十代前半程のウェーブのかかった金髪の外国人の女がやって来る。一目で竜理教とわかるのは、その夏服の胸辺りに竜の意匠が施されているからだ。
「おいおい……また竜理教かよ」
「あなたが御神体というのは本当そうね。でなければこうも狙われないわ」
「コイツ、敵か?」
漆紀、舞香、レグナは身構える。
すると金髪の外国人の女はにんまりと笑みを浮かべ漆紀達を迎える。
「どうもどうも。わたくし、マリーシャ・シャロランテと申しま~す! 早速なのですがぁ、そちらの少年、あなたが竜王様ですねぇ?」
「てめえ、やる気か!」
漆紀が人目も気にせず村雨を召喚し、切っ先をマリーシャと名乗った金髪の外国人へと向ける。
「あ、いえいえ! わたくしはあなたを攫いにきたわけではありませんよー? 攫うのであればわたくし、部下を百人近く連れてきますとも」
マリーシャの言い方からして、漆紀はマリーシャが竜理教の中でも高位の者であると推測する。
「なんなんだよ。攫うわけじゃなけりゃ、なんで俺の前に現れた?」
「いやぁ~、わたくしはわたくしなりに竜王様に竜理教の素晴らしさを説こうかと思いましてねぇ~。全国各地で布教活動もしてるんですよ、わたくし。キリスト教の教会にウチの布教のチラシを貼りまくったり、寺に竜理教の寺院に変えないかと電話したり」
「迷惑行為じゃねえかよオイ……素晴らしさねー。今のところ俺は竜理教を滅ぼそうとしか思ってないが」
「ありゃりゃ~、やっぱりそういう考えになっちゃってますかぁ。だから宮田さんにはあの方法での竜王様へのアプローチはやめておきましょうって言ったのに」
「宮田ッ!!」
漆紀は宮田の名前を聞いた途端、マリーシャへ駆け寄り、その首筋に刀を押し当てる。
「ほらほら、やっぱり宮田さん恨まれちゃってる。あんなやり方するからぁ……いいですか竜王様、何度も言いますがわたくしはあなたとお話をしに来ただけですよ」
「……」
マリーシャは依然として裏表のなさそうで能天気な笑みを浮かべて漆紀を見つめる。
「ちっ……なんだよ、話してみろ」
漆紀が村雨を消すと、マリーシャは笑顔のまま続ける。しかし舞香とレグナは納得がいかず「えぇ?」と困惑する。
「ちょっと待って、竜理教の信者なんかとマトモな話が出来ると思ってるの辰上君!」
舞香が率直に言うと、マリーシャは「傷つくなぁ」と呟く。
「やめとけ、相手は戦うつもりがないなら無視がベスト」
レグナが無視と案を出すとマリーシャは「それも嫌だなぁ」と言う。
「いや、コイツからは今の竜理教情報を聞き出せそうだ。話に応じよう」
漆紀がそう答えると、マリーシャは嬉しそうに「ふふっ」と笑む。
「ではでは、この辺りに喫茶店がありますしそこで話しましょう! なんでもお答えしますよ、竜王様。ほら行きましょう、付いて来てくださいよー!」
マリーシャの語り口調や空気感は、どこか彩那に似ているものを漆紀は感じた。




