神頼み
琵琶湖北部に浮かぶ島、その名も竹生島。
歴史ある寺社仏閣が島内にぎゅっと凝縮されている。
古来から信仰の対象になっていた島であり、神の棲む島とも崇められていた。
今では寺社仏閣が建っており、滋賀県屈指の観光スポットである。
フェリーが船着き場に着くと、乗客たちが島へと上陸していく。
真っ先に降りたのは舞香、続いて漆紀、レグナの順だった。
舞香はスマートフォンで船着き場やその周りを撮影する。島の岩肌や木々、そして木々の隙間に見える寺社仏閣の建物の姿がこの島の特別感をより一層引き立たせていた。
「凄いな、湖にある島か。なんかマジで貴重で希少な場所だな」
漆紀はさして信心深い方ではないが、街では普段絶対に見ない岩肌や木々といった自然と一体と化した神聖な寺社仏閣の形にどこかワクワクを覚えた。
「Oh……Jesus christ」
「ここはジーザスクライストを奉ってる島じゃないわよレグナさん。さあ、まずは寺に行くわよ」
舞香が先行し、漆紀とレグナは付いて歩く。レグナは船酔いの影響があるのか足取りが重い。港を抜けて階段を登って行き、大きな寺へと辿り着く。
「ここがこの島が誇る宝厳寺ね。ネットを見る限り、ここは江の島、宮島に並ぶ日本三弁財天の一つで……」
「なあ先輩、こういう場所でスマホ片手にネット情報読み上げは無粋じゃねえのか?」
漆紀が無粋と口にすると、舞香は島の神聖かつ神秘的な空気感をもう一度確認すると、スマートフォンをしまって寺の方を見る。
「それもそうね。さあ、あの大きな本堂に行ってみましょう」
舞香が相変わらず先行し、漆紀とレグナは黙々と付いて行く。寺の本堂は面積が大きく、広々とした空間が広がっている。
正面左手には護符やお守りが置かれており、大体のものが千円ぐらいで拝領出来るようになっていた。右手には線香があり、百円で一本線香を灰の入った鉢に添えられるようだ。
「へえ……せっかくだし線香焚いてこうぜ。ご利益あるといいな」
「そうね。レグナさんもやる?」
「お……OK」
三人は百円を木箱に入れると線香を一本取る。
近くには線香のための火種として蠟燭に火が灯されていた。
レグナは大雑把に面倒臭そうな様子で線香に火を灯すと雑に鉢の灰に突き刺す。
「あんた……雑だな」
漆紀も線香に火を灯すと、そっと鉢の灰の上に突き刺す。
舞香の場合は線香に火を灯すと、倒れない様に鉢の灰へと深く突き刺す。
「本堂に合掌よ」
「ああ」
「Yes」
三人は本堂向かって目を閉じ合掌し、神社の時と同じ要領で心の中で様々な願いを思う。
「よし、次行こう。次は……」
「神社よ」
「Shrine?」
舞香が踵を返して数歩歩くと、漆紀とレグナの方を振り向く。
「ほら、行きましょう。見所はここだけじゃないんだから」
三人は舟廊下という木造で綺麗に整った廊下を歩いて先に進み、開けた場所に着く。左手と右手に舞台のような大きな建物があり、左手に神社があった。
「先に神社よ。お参りしましょう?」
三人は先程の寺と同じくらい神社の雰囲気に飲まれていた。
「ここの祭神は確か……琵琶湖の湖水を支配する浅井なんちゃらって神様と、龍神様を奉ってるわ」
「浅井って……この辺りで浅井ってーと、戦国時代の浅井家となんか関係あんのか?」
「そこまではわからないわ。関係あるのかしら……なんにせよ、この神社は琵琶湖に関する神様の神社よ」
「琵琶湖……そうか」
漆紀とレグナはそのまま賽銭箱に向かって階段を上がるが、舞香は階段を上がる前に二度礼をする。
「あんた……律儀なんだな」
舞香は正しい作法でお参りをするようだ。
漆紀は財布から五円玉を取り出す。
舞香は財布から十円玉を取り出しつつ漆紀を見て首を傾げる。
「え? 五円? ここ、縁結びの神社じゃないわよ?」
「え? 神社の賽銭って縁結びとか関係なく五円が定石じゃないのか?」
「まあ、いいけど……」
漆紀は五円玉を賽銭箱に入れ、舞香は十円玉を賽銭箱に入れる。
すると、その脇からレグナは賽銭箱に千円札を放り込む。
その様子を見て漆紀と舞香は目を点にして見入る。
「え?」
「え?」
「え、なに? 神がいるなら、多く入れた方がいいでしょ」
「……」
「……」
「なんか、ダメだった?」
レグナは困惑の表情を見せるが、漆紀と舞香は首を横に振って神社の方へと向き直る。
漆紀は二回拍手をするが、舞香は正しい作法に倣い二回礼をしてから二拍手して目を瞑って願いを心に思う。
レグナは漆紀と同じで二回拍手すると目を閉じて願いを思う。
「……よし、次は後ろの舞台に行ってみるか」
「そうね」
「OK」
三人は後方にある大きな舞台に入ると、そこには他の場所以上に観光客が集中していた。
「なんだろここ」
「ここは竜神拝所と言うらしいわ。あそこに突き出た鳥居へかわらけを投げて、鳥居の中に入れば願いが叶うらしいわ」
舞香は再びスマートフォンを片手にそう説明をしていた。
「先輩、だからスマホは無粋だって」
「おっと無意識にやっちゃってたわ。さて、かわらけは……あれね」
かわらけは百円で販売していた。三人は百円を支払ってかわらけを買うと、舞台の手すりへと向かう。
「さて、投げるか……そい!」
漆紀がまず最初にかわらけを鳥居へと投げていく。かわらけは真っ直ぐな軌道を描き鳥居の中へと入っていく。
「っし! 願うか」
漆紀は両手を合わせて願う。今度は舞香がかわらけを投げるが、鳥居の外へと落ちてしまう。
「くっ……もう一回!」
舞香は追加のかわらけを買いに行く。
レグナは軽く目を瞑ったあと、目を見開いて手首のスナップを利かせてかわらけを鳥居へと投げる。その時「シュウ」と変な音がする。
かわらけは鳥居の中へと真っ直ぐ入っていき、漆紀はその様子を見て首を傾げる。
「おい、今の変な音……それ能力使った?」
「……」
漆紀はどこか冷めた目でレグナを見ると、レグナはそれを意にも介さず目を閉じて両手を合わせて願う。
「おい、能力使っただろ。なにやった?」
「……」
レグナは目を開けて両手を解くと、意にも介さず彼女は手すりにもたれ掛かる。
「まだよ。まだまだだわ。絶対にかわらけを鳥居に入れてやるわ!」
舞香は必至そうにかわらけを鳥居へと投げ続けた。
島の見どころを見切った三人は再びフェリーに乗って、竹生島を発つ。
レグナが相変わらず船酔いしてトイレに籠り、漆紀と舞香はデッキに出ていた。
「もう夕方ね。早いものね」
「ああ。琵琶湖の夕陽、綺麗なもんだな……」
フェリーからは湖面に反射するほどの美しい夕陽が眺められる。
「良い場所だったな。マイナスイオン的なアレをビンビン感じる場所で良かったな」
そう振り返って言う漆紀に舞香は「そうね」と短く返す。
「ホテルの夕食が楽しみだわ」
「夕食出るタイプのホテルなんで?」
「一日目の長浜では夕食出るわよ。楽しみよね」
「ああ。色々出ると良いんだが……ところで、レグナは相変わらず吐いてんのかな」
「さあ? 吐いてるかまではわからないけど、気持ち悪いんでしょうね」
「あいつ夕食食えんのかよ……」
レグナの船酔いぶりを考えると、マトモに夕食が食えるか怪しい。
「ま、まあホテルに着く頃には船酔いの影響も治ってるでしょう」
そう片付けると、舞香は目を閉じて心地良い湖風に身を委ねる。
「涼しいな……夕方の風も気持ちいいもんだ」




