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星影が導く花明かり  作者: 天りあま
第二章 仲間との出会い

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50. 迷宮を攻略します

 迷宮攻略にティンナトールの協力を取り付けてから数日後。

 彼を連れたチェラシュカたちは、再びあの迷宮の前へとやってきた。


 来る前には約束通り、ラキュスがティンナトールの腕に柔らかな枷(ウィンクトゥラ)を付け、『チェラシュカ、ラキュス、レオニクス、ストラメルに危害を加えないこと』『一人で許可なく迷宮を抜けてしまわないこと』と宣言している。

 

 入る順番を決めるのに一悶着あったものの、案内人が真っ先に罠を対処しなくてどうするということで、ティンナトールが先頭を、それに続いてレオニクス、チェラシュカ、ラキュス、ストラメルの順で進むことになった。

 

 仕方ないですね、と言いながら慣れた様子で中に入るティンナトールの背を目で追う。

 しかし、続いて中に入る予定のレオニクスが、固く手を握り締めたまま動かない。大丈夫かな、とチェラシュカはその背をつんつんと(つつ)いてみた。

 

 ピクッと身を震わせた彼は、大きく深呼吸をして足を踏み出した。

 緊張しているのかなと思いながらチェラシュカは彼の服をきゅっとつまみ、共に迷宮に足を踏み入れるのだった。

 


 中に入って二十歩ほどのところで、前方から「皆さん一旦そこで止まってください」という声がかかった。レオニクスの背から横に顔を覗かせると、ティンナトールがしゃがみこんで何かしているようだった。


「何をしているの?」


 チェラシュカが問いかけると、彼はこちらを振り向いて壁の下の方を指し示した。ごつごつとした岩壁が生活魔法の明かりで照らされており、そこには白い線で丸や四角などが多く重なったような図形が描かれていた。


「この魔法陣が見えますか?」

「ええ、見えるわ」

「すげえ……そんな壁によく描けんな」


 レオニクスがしみじみと感心したような声を上げる。

 確かに、あの凹凸の多い岩肌に描くのは難しそうだ。


 すると、彼の声を聞いたラキュスとストラメルがこちらに詰め寄ってきた。ぎゅぎゅっと四人で集まって魔法陣を見つめる。


「……暖を取る小鳥みたいですね」

「……なんつった?」

「いえ。……この魔法陣の前に立つと、方向感覚を狂わされます。ですので、この前に遮蔽物を置きます」


 ティンナトールが壁に向かって指をすいっと動かすと、魔法陣より一回り大きな少し厚みのある氷の塊が出現した。それから氷の塊の前をゆったりと歩いて通り過ぎた彼は、こちらに向き直った。

 

「通っていいですよ」


 レオニクスが恐る恐るといった歩みでティンナトールの方へ向かうのに続いて、チェラシュカもそろそろと氷の塊の前を通り過ぎる。


 その氷は普通に魔法で作る氷よりも縁のギリギリまで白く曇っており、あえて細かい空気を大量に含ませて作ったのではないかと思われる。透き通っていると遮る効果がないのかもしれない。


「こいつのせいで俺たちは何回も入口に戻されたんすね」

「足元にあるから気付きにくいんだな」


 ストラメルとラキュスは、ささっと氷の前を通り過ぎてから魔法陣が描いてある壁付近をまじまじと観察していた。

 一方、レオニクスはティンナトールに「この魔法陣って消せねえのか?」と尋ねている。


「消しませんよ。そんなことをしたら面白くないでしょう」

「面白くねえって……」

「私の目的は変質を観察することですから、どの仕掛けも無効化はしません」


 そう告げた彼が氷の塊を一瞥すると、一瞬でじゅわっと溶けて消えた。

 

「……徹底しているわね」

「もしかして、ここが攻略されないのってこの人の趣味のせいじゃないっすか?」

「……否めないな」


 ラキュスとストラメルと声を落として話していたところ「仕事ですよ」と言う研究者の声がした。聞こえていたらしい。


「さて、次はあれですね」


 スタスタと先を行くティンナトールを、レオニクスと並んで追う。気付けば入り口より道幅が広くなっており、二人で並んでもゆとりがあった。


 あれって? とレオニクスが問いかけたとき、ざばーっという音と共に左右から大量の水が吹き出してきた。

 

「わぶっ」

 

 吹き出す位置がチェラシュカの頭の高さくらいだったため、顔面に水を食らってしまった。通路の水嵩がみるみるうちに増していき、既に水面は膝より高い位置にある。

 水に羽が浸からないようにしたいが、水を吸ったケープが重たく纏わりついて上手く動かせない。


「やべっ」

「チェリ!」

「なんすかこれ!」


 仲間たちの焦った声に、前髪から垂れてくる水滴を拭いながら前方を見遣る。


 不思議なことに水が溜まっているのは今居る場所だけで、透明な水槽の中に居るような状態だった。見えない壁まであと十歩も歩けば、水の中から抜け出せそうである。


 そして、既に水の中を抜けて前方に居るティンナトールから、こちらですよ〜という気の抜けた声をかけられる。


「こちらですよ、じゃねえって! チェリちゃん、大丈夫か!?」

「だ、大丈夫!」


 切羽詰まった様子のレオニクスがこちらを向いて手を伸ばしてきた。チェラシュカはその手をぎゅっと握ると、振り返って手を伸ばす。


「ラキュス!」

「っチェリ!」


 チェラシュカが伸ばした手をラキュスが力強く取った。

 彼は少しほっとした顔をした後、ちらっと後ろを見た。


「……ストラメル、掴まりたければ掴まれ!」

「なんか俺に冷たくないっすか!?」


 ストラメルはやや不服そうな顔をしつつ、ラキュスの腕を掴んでいた。


 その様子を確認したチェラシュカは、レオニクスに手を引かれながら水を足で掻き分け、なんとか四人で水の中を抜けることができた。


 服が水をたっぷりと吸っていて非常に重い。結局羽の先も一部水に浸かってしまったし、纏わりつくケープも相俟(あいま)ってかなり不愉快な状態だ。


 振り返ると、通路を満たすほどの水はいつの間にかさっぱりカラッと一滴も無くなっていた。持続時間が一時的なものなのか、場所がトリガーとなるものなのか、どちらだったのだろうかなんて考えてみる。


「やっと来ましたか」

「おっまえなあ……! 最初からわかってんだから言えよ!!」


 レオニクスがティンナトールに食って掛かっているが、彼は飄々とした様子で全く気にしていないようである。穏やかな微笑みというのは決してびしょ濡れの同行者に向ける表情ではない。


 その間に、ラキュスがチェラシュカの服を風魔法で乾かしてくれた。

 皆が風魔法で各々の服を乾かした後(レオニクスのはラキュスが乾かしてあげていた)、ラキュスたちがティンナトールに詰め寄っていた。


 「先に言え」「さっきみたいに防げ」「自分一人罠から逃れるな」「何のために先頭にいるんだ」など、概ね最もな主張に思える。


 しかし、ティンナトールは小さく息を吐くと冷めた目をして言った。


「たかだか水に濡れるくらいなんだというのですか。私は迷宮の案内には協力しますが、護衛ではありませんよ」

「はあ……!?」

「それに、命に関わるようなものは事前に教えてあげます。ほら、見てください」

 

 彼は進行方向に向かって足元に落ちていた石を軽く放り投げた。

 カツン、と音を立てて十数歩ほど先に落ちたかと思いきや、巨大な炎に包まれた。

 そして彼は、朝食の献立を告げるかのような気軽さで「あんな仕掛けもあります」と言うのだった。

 

 チェラシュカたちは息を呑むと、声を出さずに視線を交わし合う。


「……レオニクス、ここで対立するのは得策ではないと思うわ」


 紆余曲折はあれど折角協力してもらえることになったのに、こんなに初っ端から反故になってはたまったものではない。


 予め詳しく教えてほしかったという気持ちも少なからずある。だがせめて、事前に聞き出した危険な罠を超えるまでは、共に行ってもらわなければ。

 

「お、俺もそう思うっす」

「ティンナトール、その言葉、(たが)えるなよ」

「……仕方ねえな。マジでやべえやつは教えろよ!」

「もちろんですよ。まずはそうですね、あの炎の魔法陣は踏まなければ問題ありませんので」


 ティンナトールは壁際に寄り、先程大きな炎を上げた場所を避けて先へ進んだ。チェラシュカたちはそれに倣い、彼が通った足跡を辿るようにしつつ小走りで駆け抜けた。



 また十歩ほど歩いたところで、少し先を歩く彼がこちらを振り向いて、チェラシュカたちに制止するように告げた。


「私が先に通りますので、一通り終わってから皆さんは後から来てください」


 目の前の通路を見てみるものの、特に先程までの景色と何ら変わりないごつごつとした岩壁があるのみだ。

 

 "一通り終わる"というのがよくわからないながらも了承の返事をすると、彼は特に何か魔法を使うでもなくそのままその通路を歩いて行った。すると――。



 ばしゅばしゅばしゅっ。ぐさぐさぐさっ。



 突如開いた右手の壁から、大量の矢がティンナトール目掛けて飛んできた。


「……えっ」


 チェラシュカが呆然として固まっている間に、周囲では大きな声が飛び交っている。

 

「おおおお前大丈夫か!?」

「罠全部知ってるんすよね!?」

「なんで避けない!?」


 矢が飛んできたのは一瞬のことだった。そのため、こちらから防御するための何かを行う間もなかった。


 矢のほとんどは反対側の壁や地面に刺さっているが、何本かは彼の身体に刺さってしまっている。

 彼はそれを平然とした顔で抜きながら、今回は右か、と呟いているのが聞こえた。

 

「皆さん、こちらに来ても大丈夫ですよ」

「だ……、いじょうぶなわけあるかああ!!」


 レオニクスが叫ぶ。かなり大きな声に耳がキーンとなった。

 それを平然と聞き流したティンナトールがこう言ってのけた。

 

「あ、矢には素手で触れない方がいいですよ。毒が塗られているので」


 場に沈黙が落ちる。


 毒が塗られている、そう言った彼は素手で矢を掴んでぽいっとその辺に捨てている。最後に首に刺さっていた矢を抜くと、出血している場所に手を翳し順に自身の傷を治癒していた。


「え、マジでなんなんすかあの人……」


 ストラメルの言葉は、この場にいた仲間たちの気持ちを代弁していた。

 一方、ティンナトールは少し不思議そうな顔でこちらに視線を向ける。


「ああ、もしかしてまた矢が飛んでくると思っていますか? しばらくここの仕掛けは休止しているので、今のうちにこちらへ来てください」

「その言葉はどこまで信用していいんすかね……」

「別に私の言葉を信用せずとも構いませんよ。あなたたちがそこで立ち往生するだけですので」

「……仕方ないな」


 ラキュスが小さく溜息をつくと、四人全員が入る大きさの水のドームを作った。

 チェラシュカは彼に手を引かれ、慎重に足を踏み出した。多く積み重なった矢の上は非常に歩きづらい。いつまた矢が飛んでくるかと身を固くしながら進んだものの、特に何事もなく通り過ぎることができた。

 

 周囲をさっと見渡したラキュスが、水のドームを解除する。

 やっと一息付けた心地になったチェラシュカは、感謝の気持ちを伝えた。


 そんなチェラシュカたちを、すっかり無傷になったティンナトールが静かに眺めている。

 そこへレオニクスが真っ向から彼に詰め寄った。

 

「お前さ、罠の内容わかってたんだよな?」

「ええ、もちろん」

「ならなんでそのまんま突っ込んでった!? 魔法使えんならさっきのラキュスみてえに身を守れんだろ?」

「マジでビビったっすよ」

 

 ストラメルも眉根を寄せて、信じられないものを見るような表情をしている。

 だが、ティンナトールは当然のことのようにこう口にした。


「障壁を作るより治癒の方が魔力の消費が少ないので」

「……マジで言ってんの?」

 

 レオニクスは物凄く難しい問題に直面したような表情でこちらを振り返り「そうなのか?」と問いかけてきた。


「……得意不得意で魔力の消費量は変わるから一概には言えない」

「いやでも流石に痛いのは嫌っすよ」

「そうだな。……チェリ?」


 先程からほとんど黙っていたことで不審に思われたようだ。チェラシュカはラキュスの手をぎゅっと握ると、ティンナトールを真っ直ぐに見据えた。


「ティンナトール」

「なんでしょう」

「……傷は、大丈夫なの?」

「はい、この通りです」

 

 彼は自身の右腕をこちらに見えるように伸ばした。その腕はもちろん、脇腹や首には傷跡すら残っていなかった。服に空いたはずの穴も塞がっている。


 チェラシュカは、こちらへ伸ばされた手の上にぽぽんと生成した数粒のさくらんぼを載せる。


「食べて」

「……これは?」

「食べて。治癒の効果があるから」

「傷は治しましたが」

「食べて」


 彼は怪訝そうにしながらも、一気に口の中にさくらんぼを放り込んだ。チェラシュカは彼が咀嚼する様子をじっと見つめ、喉が上下したことを確認する。


「……私は目の前で誰かが危ない目に遭うのを見たくないわ」

「はあ、そうですか」

「でもあなたは言っても変わらなそうだから、あなたが怪我をするたびにそれを食べてもらうことにするわ」


 ティンナトールと関わった数日を思い返せば、彼が一筋縄ではいかない性格なのは重々承知している。

 そんなチェラシュカの言葉を聞いた彼は僅かに目を細めた。

 

「……ふうん? まあ、美味しかったので構いませんよ。いくらでもどうぞ」

「……それってめちゃくちゃ怪我する宣言ってことっすか」

「お前、いい加減にしろよ」

「チェリ、ティンナトールのためにそんなことをする必要はない」


 繋いだままだった手を引かれたチェラシュカは、幼馴染と向き合う形になる。


「彼のためじゃないわ、私のためよ」

「チェリの?」

「私が自己満足のためにやると決めたの。だからラキュスは気にしなくていいわ」

「……チェリがそう言うなら」


 彼は納得していない表情をしていたが、渋々頷いていた。

 それを見たチェラシュカも一つ頷いたあと、手を離して再度ティンナトールに向き直った。


「ねえ。さっきの罠なのだけれど、しばらく休止しているっていうのは検証したってことよね?」

「はい。全ての仕掛けに対して、発動条件や連続して動くかどうか、位置や効果範囲などを確認しています」

「……すげえな」

「サラッと言うっすけど、とんでもなく時間かかるっすよね……?」

「それを全部覚えてるってことか……」


 改めて彼のやっていることを明確にすると、常人の域を超えているということを思い知らされる。ストラメルも驚いていることから、ヒトならできるというわけでもなさそうだ。

 そんなチェラシュカたちが感心する様子にも、ティンナトールは特に関心を示していない。


「さっさと行きましょう」


 そう告げて前を向いてすたすたと歩く彼を、チェラシュカたちは慌てて追いかけた。

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