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星影が導く花明かり  作者: 天りあま
第二章 仲間との出会い

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41. 迷宮に遭遇します

 変な魔人との出会いから一週間以上経過した頃。

 チェラシュカたちは、中央の国モディトゥムより北に位置する国、ヒュペリアへ向かっていた。

 

 本来であればメディオンから大体西の方へ向かえば星空の街に着くはずだが、そこへの道が土砂崩れによって塞がってしまったらしい。地盤も緩んで危ないとのことで、安全策を取ることになったのだ。

 

 道中で泊まった宿の人の話によると、ヒュペリアの首都ボレアードを経由して向かうのが一番安全とのこと。

 道はいくつかあるものの、遠回りだけれど一番大きくて安全な道をすすめられた。

 そして今、チェラシュカたちが進んでいるのはその遠回りでも安全な道、ではなく――。

 

「迷宮になっていて通れないって、どういうことだろうな」

「行けばわかるとあの人は言っていたけれど……」

「ま、通れりゃラッキーってことで。無理なら回り道するしかねえよな」

「別に急がないっすけど、さくっと進めるんならそっちのがいいっすね」


 ストラメルを仲間に加えた今、取れる手段も増えたということで最短ルート(※但し途中に迷宮がある)を行くことにしたのだった。

 

 その迷宮は、モディトゥムとヒュペリアの国境を跨ぐように位置しているそうだ。どちらの国からもきちんと入口は確認されており、通り抜けられれば遠回りの道の半分以下の一週間ほどで着くことができるらしい。

 

 前人未踏というわけではなく、通り抜けた人は存在する。……が、それは数百年以上前のことであり、今はすっかり使われなくなっているとのこと。

 

「通り抜けた実績はあるらしいのに、どうして今使われてないんだろうな」

「迷宮っていうからにはみんな迷ってんすよ」

「でも、数百年もの間挑戦した人が全員迷うなんてあるのかしら」

「やっぱめちゃくちゃわかりにくいんじゃねえの」

 

 そんな会話をしながら適当に休憩を挟みつつ、四人が砂利道を踏みしめて歩いた先で、十中八九これだ、というものが見えてきた。


 視界を埋めるような切り立った岩壁。その中心には、挑戦者を待ち受けるかのように口を開くいかにもな入口がある。

 

「確実にここね……」

「そうだな……」

 

 まず目を惹くのは、チェラシュカの背丈ほどの大きさの二つの石像だ。

 何の生き物かはわからないが、一体は大きく口を開けて鋭い牙を剥き出しにし、もう一体は固く口を閉ざした状態で、入口の脇にそれぞれこちらを向いた状態で鎮座していた。

 目に嵌め込まれた石が光っており、入ろうとすれば襲い掛かってきそうな迫力がある。

 

 それらの像の奥にある入口は壁に四角く穴を開けたような見た目で、切り出された大きな石が縁に積まれることで入口を固められていた。

 入口自体は、四人が並んでもゆとりのある幅で、一番背の高いストラメルが手を伸ばしてもギリギリ届かない程度の高さがある。しかし、その奥は中の様子が殆どわからないくらいの暗闇に包まれていた。


 それらをしばし眺めていたレオニクスは、眉を顰めて「マジでこれ入んの……?」と言う。


「これ、上から行けないんすかね?」

「上から?」


 ストラメルの言葉を聞いて、チェラシュカたちは彼の視線を追うように迷宮の外壁のてっぺんを見上げた。

 突如現れた崖といった趣のそれは、高さでいうと恐らく五階建ての建物くらいである。決して低いとは言わないが、魔法で飛び越えることは可能そうに見える。


 だが、魔力量の多寡こそあれ、飛行魔法で越えるだけなら誰にとっても大したことはない高さのはずだ。魔法が使えない獣人以外の種族もここを越えられていないというのは、かなり不自然に思える。


「俺が確認してくるから、チェリたちはここで待ってろ」


 止める間もなくラキュスはそう言ってビュンと飛び上がった。三枚の羽が空をばさりと一掻きし、みるみるうちにその高度が増していく。


「おー、はええな」

「やっぱ羽があると飛びやすいんすかね」

「……どうかしら」


 レオニクスたちとそんなことを話していたが、チェラシュカはここで上空に向かうラキュスの速度が緩んでいることに気付いた。

 頂上に着くからかと思ったがそういうわけではなく、それどころか――。


「ラキュス!」


 チェラシュカの叫び声に反応したレオニクスが、ふらふらと空から降りてくる、というか落ちてくるラキュスの下へ走った。


「おい!」

「え、ラキュスさん!?」


 すぐにチェラシュカもふわりと飛び上がり、真っ直ぐにラキュスを目指す。今度こそ間に合ってみせる、と強く思いながら。

 

 落下中のラキュスに近付くと、辛うじて落ちる速度を弱めている程度の飛行魔法しか使えていないようだった。顔色の悪い彼の手をぎゅっと掴み、地面に激突しない程度の速さでゆるりと地面に降り立つ。

 よろよろと前方に倒れ掛かったラキュスをレオニクスが正面から支え、「大丈夫か!?」と大声を上げた。


「うるさい……」

「そう言えるなら大丈夫そうっすね」


 ギリギリ聞こえるような音量のラキュスの呟きに、ストラメルが軽口を叩く。

 繋いだ手はそのままに、チェラシュカは反対の手でラキュスの背をそっと(さす)る。しばらくして彼の様子が落ち着いてきたのを確認すると、さくらんぼをぽんと出して彼の口に突っ込んだ。

 

「むぐっ」

「ねえ、どうして急に落ちてきたの? とっても心配したわ」


 何事もなく無事なのだから落ち着かなければ、と平静を装って尋ねた。

 ラキュスが口の中身をごくんと飲み込むのをじっと見守る。

 

「上空の方に行くと急に気分が悪くなった。恐らくあのあたりに魔法を使いにくくする何かがある」

「そうだったの……ラキュスが無事で良かったわ」

「マジっすか! それで誰も上から行けてないんすね」

「ビビったから無茶すんなよな」

「……もう平気だ」


 ラキュスはそう言うものの、まだ顔色が悪い。

 そんな彼を見ていたストラメルがこう言い出した。

 

「じゃ、俺がちょっと中の様子を見てくるっす」

「え゙」

 

 レオニクスが驚くのにも構わず、彼は真っ直ぐ迷宮の入口へ向かった。一切の躊躇を見せずに軽い足取りで迷宮の中に入っていった彼は、何故かものの一分も立たずに戻ってきた。

 あれ? とかなり不思議そうな顔をしている。


「お前も急に動くんじゃねえよ」

「どうしたの?」

 

 レオニクスの言うことも尤もだと思いつつ、何か中におかしなものがあったのかと尋ねてみる。すると、彼はしきりに首を傾げながらこう言った。

 

「俺ずっと真っ直ぐ進んでったんすけど、気付いたら外に出てたっす」

「……マジで?」

「なら……少し休んでからみんなで行ってみましょうか」

 

 ラキュスの顔色が戻るまでしばらく休憩し、それから四人は改めてその入口の前まで来た。

 一度中に入ったストラメルが先頭に立ち、続いてラキュス、チェラシュカ、レオニクスの順でぞろぞろと中に入る。

 

 チェラシュカは万が一のことを考えて前を歩く幼馴染の服の裾をきゅっと掴み、慎重に一歩ずつ歩みを進めていた。

 入口付近はまだ外からの光が入ってくるものの、中はストラメルが魔法で照らしていなければ何も見えない暗さである。


 中は一見ただの岩壁といった感じで、特におかしな部分は見受けられなかった。

 そのまま三十歩ほど進んだ頃だろうか。一瞬くらりと目眩がしたものの、すぐに収まったのでそのまま歩いていくと、気付いたら外に出ていた。

 

 ――何が起こったの?

 

 目の前には自分が裾を掴んだままのラキュスと、先頭を歩いていたストラメルがいる。振り返るとレオニクスと目があったが、彼も困惑しているようだった。

 

「確かにストラメルの言う通り、真っ直ぐ進んだのに外に出てきてしまったな」

「どういうことだ……?」


 何度か中に入ってみたものの、何度試しても入口に戻ってきてしまうため、一旦対策を考えることにした。

 ここまでの道中に少し栄えた町があったので、もと来た道を引き返しその町で宿を取ることにしたのだった。



 ◇◇◇


 

 チェラシュカは一人で客室を借りているため、荷物を置くとその隣の三人の泊まる客室に向かう。宿自体の大きさもさることながら、部屋も十分広いので四人で居ても全く窮屈ではない。そんな今までよりゆとりのある部屋の中で、今後の方針について話し合うことにした。

 

「で、どうする」

「……突破する手掛かりもなさそうだし、多少回り道でも確実な方を取ったほうがいいんじゃねえか?」

「俺はどっちでもいいっすけど……あの壁ぶっ壊していくとかはダメっすか」

「ぶっ……」

「おい、ストラメル」

 

 ストラメルの突拍子もない発言に、レオニクスは目をまんまるにして彼を凝視しているし、ラキュスはありえないと言いたげだ。

 流石に破壊するのは何かしら問題があるように思うが、時間はあるのだし色々と試してみたい気持ちが強い。

 何より、迷宮なんてわくわくするではないか。


 故郷に居たままでは絶対お目にかかることのなかった未知の塊である。危険な目に遭わないかは当然心配ではあるが、やはり出会ったことのないものに挑戦することが旅の醍醐味ではなかろうか。

 

 そんな気持ちが表に出ていたらしい。ラキュスはこちらを一瞥すると、深く溜息をついて「チェリは?」と聞いてきた。

 

「もちろん、再挑戦するに一票よ!」

「……チェリちゃん、マジ?」

「やっぱりな。俺としては、チェリに危険がなければ再挑戦しても構わない」

「ありがとう、ラキュス。ということは、二対二……?」

「俺はどっちでもいいんで、チェラシュカさんにつくっす」

「おい!? オレを一人にすんなって!」


 ラキュスの意見を聞いて即座に声を上げたストラメルと、味方がいなくなったレオニクスを見て思わずくすりと笑ってしまった。


「急がば回れだし、確実に行ける方がいいんじゃねえかと思っただけで、再挑戦に反対するつもりはねえよ……」

「あら、本当に? 正直に言ってくれて構わないのよ」

「嘘じゃねえよ、正直な気持ちだって」

「そう? ……ふふ。レオニクスがいれば迷宮を進むのも楽しいだろうなって思ったから、嬉しいわ」

「……え、それどういう、」

「なら決まりだ。二手に分かれて情報収集しよう。俺はチェリといくから、レオニクスとストラメルは二人で聞き込みを行ってくれ」


 レオニクスが何か言いかけていたが、ラキュスの声に遮られてしまったようだ。

 何か言いたいことがあるのかと、レオニクスに視線を向けて小首を傾げてみると、少し顔が赤くなった彼に視線を逸らされてしまった。

 

 そっぽを向いたまま「わかった」と言う彼とその隣のストラメルに、ラキュスが簡単にどう聞き込みを進めるかを説明する。

 レオニクスとストラメルは一つ頷いて部屋を出ていった。

 チェラシュカとラキュスも彼らの後に続いて部屋を出ると、一階の待合スペースに居た宿泊客たちへ聞き込みを始めた。



 ◇◇◇


 

「ああ、あの迷宮ね。知ってるよ。入ってもすぐ出てきちゃうとこでしょ」

「ええ。あそこを突破する方法ってご存知ないでしょうか」

「残念ながら知らないね」

「そうですか……ありがとうございます」


 その後も何組か聞いてみたものの、結果は空振りばかりだった。

 

「もしかして、ここに居る人たちって全員迷宮を越えられなかった人たちなんじゃないかしら……」

「……そうかもしれない」

 

 チェラシュカたちが嫌な事実に気付きかけたとき、突然向こうから怒鳴り声が聞こえてきた。


「あ゙? なんだと? もっぺん言ってみろやてめえ!!!」


 そちらを見遣れば、ストラメルが見知らぬ人相手に大声で怒鳴っていた。相手は少し腰が引けているものの、負けじと言い返していた。

 

「あ、ああ、何度でも言ってやるさ! お前みたいな頭のおかしい野郎は、家畜と仲良くしてるのがお似合いだってな!」

「あ゙あ゙!? ふざけんなよクソ野郎がぶっ殺すぞ!!」

「お、おいストラメル、落ち着けって……後なんであんたも煽るんだよ」

「お前もだ! 所詮畜生の分際で調子に乗りやがって! だからストラメルみてえなのとつるんでるんだろうがよ!」

「……はあ?」

 

 ストラメルが見知らぬ人の襟首を掴んだのを止めようとしていたレオニクスだったが、急に矛先が向けられて固まってしまっている。大きく目を見開いてかなりショックを受けているようだった。

 詳細はわからないが、二人が酷い暴言を浴びせられていることには間違いない。

 ラキュスと急いでそちらへ向かう。


「どうしたの?」

 

 レオニクスは呆然とした表情で、何も言えない様子だった。ストラメルは眉間に思いっきり皺を寄せてガンを飛ばすという喧嘩に入るお手本のような顔だ。


 見知らぬ誰かはというと非常に嫌そうな表情をしていたが、チェラシュカのことを目に留めると上から下まで舐めるような視線でじっとりと見回した。そして、とてもではないが言葉に言い表したくない表情へと変わる。


 それに気付いたラキュスが咄嗟にチェラシュカの前に出た。

 だが、ラキュス越しに視線を送られているのを感じてチェラシュカは思わず目を細める。

 

「な、なあお前たち、こいつと知り合いなのか? こんなクズとつるむのはやめたほうがいい。それより、あの迷宮を抜ける方法を探してるんだって?」

「ああ。だがそれより先に、ストラメルとレオニクスに謝罪しろ」

「はあ? こんな奴らに謝る理由なんか一つもねえな」

「暴言を吐いていただろう」

「事実を言って何が悪いんだ? 何も間違っちゃねえさ」

「んだとこの野郎……!」

「ストラメル、殴るなよ」

「……ちっ」

 

 ストラメルは今にも殴り掛かりそうな体勢だったが、ラキュスに声をかけられて掴んでいた襟首を離した。何かきっかけがあればすぐに爆発しそうだ。

 見知らぬ人は殴られなかったことで少し落ち着いたのか、こんなことを口にし始めた。

 

「ふ、ふん。そんなことより、俺は迷宮を抜ける方法を知っているぞ。お前たち、知りたいんだろう?」

「まあ……」

 

 思わず声に出てしまったが、それが聞こえたのか見知らぬ人はずいっと体を動かしてチェラシュカの視界に入ってきた。

 

「あれはコツがいるんだ。……そこの美人にだけ教えてやるから、野郎どもはどっかへ行け」

 

 そう言った彼は、自身の灰色の前髪の間から下卑た視線をチェラシュカに浴びせたまま手招きをしてきた。こちらが返す冷ややかな眼差しをものともしていないようだった。

 

「な、何言ってんだ……!」

 

 レオニクスは彼の言葉を聞いてはっとしたように声を上げたものの、いつもの覇気は感じられず少し声が震えていた。

 一方で、ストラメルは更にブチ切れているし、ラキュスまで掴みかかりそうである。

 

「は? 二人きりになんてさせるわけないだろう」

「おいてめえふざけんのも大概にしろよ!?」

 

 

 二人が彼に詰め寄ろうとしたとき、カツン……と誰かの靴音が響いた。


 ゆっくりとこちらへ近付いてくるその音の方を振り返ると、肩にかかるくらいの薄紫の髪の人が立っていた。着心地の良さそうな黒いタートルネックに、ぱりっとしたグレーのスラックスを身に着けた姿は、どこか洗練された雰囲気を漂わせている。


 その人はチェラシュカの横を通り過ぎざまにちらりとこちらを一瞥すると、すぐに視線を進行方向にいる見知らぬ人に戻した。

 彼はラキュスの横でチェラシュカへの視線を遮るように立つと、全員に聞こえるように一言告げた。

 

「失礼。その方は嘘をついていますよ」


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