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プロローグ3 襲来

すみません体調が悪くて昨日の更新はできませんでした。

7/28 タイトル変更いたしました。


 クラリーチェがかざしてくれた、螺鈿細工の精緻な飾り付けがなされた気泡ひとつない鏡(これひとつとっても国宝級でしょう)に映ったのは、年の頃なら十四、十五歳とおぼしき、すらりと伸びた四肢に――やや発育不全……げふんげふん――華奢な肢体をした少女の上半身でした。


 育ちの良さを感じさせる端麗な顔立ちは、美神が持てる力をすべて注ぎ込んだかのような完璧な黄金律をなし、ありきたりな表現ながら、まさしく地上に降りた天使のような触れる事すらはばかれるような、どこまでも繊細で透明感のある美しさです。


 まあ実際のところ、その比喩はあながち的外れではなく、この容姿は市井(しせい)にあっては絶対に生まれない……何かの奇跡で生まれたとしても決して磨かれることなく、摩耗するだけだったでしょう。

 下世話な言い方になりますが、選ばれた美男美女が長い年月をかけて、せっせと下半身の作業(王侯貴族の子作りなど仕事のひとつです)と頭のオカシイ血統の交配を行った結晶であり、世俗にあっては絶対に生まれない純粋培養品の手本のようなものです。


「……う~~ん。改めてこうして見ると、どことなくイクノの面影があるような」


 ただでさえ極端な女顔だったイクノのとりわけ女性らしい部分をさらに磨きをかけたような、五年後、いえ三年後にも傾国傾城の美女と呼ばれそうな隙のない美貌が、鏡の中でしかめっ面をするのでした。


 そんなある種人間離れした美貌をなおさら引き立てているのは、腰まで届く癖のない白金色の髪であり、神秘的な色合いの潤んだ菫色(すみれいろ)の瞳にあります。

 世界広しと言えどもこの特徴を持つのは我がアエテッナァ皇国の皇族のみであり、アエテッナァ人にとって皇帝陛下は神にも等しく、たとえ皇室尊崇(そんすう)の念に乏しい犯罪者や反政府主義者であっても、アエテッナァ人であれば白金色の髪と菫色の瞳を目の当たりにすれば、緊張のあまり石になる……とか。


 まあ、私にとっては皇帝陛下も親戚のおじ様であり、この髪も瞳も見慣れたものですので特に感慨はなかったのですが、前世の記憶が蘇ったお陰である程度客観視できるようになりました。

 なるほど神聖視するわけですわね。


 大公女にして王女――というか、この皇族だけが持てる特色を纏っている段階でアエテッナァ皇国においては非公式ながら『皇女殿下』という、やんごとない尊称が陰になり日向になり付随する私――ですが、幸いなことに王侯貴族にありがちな傲慢や尊大といた雰囲気は一切なく、淑女の代名詞である優美さと清淑(せいしゅく)さが際立って自己主張していることに、これまではせいぜい「うちの家系はお爺様以来、だいたいが自由人ですから」程度の認識でしたけれど、もしかすると知らずに前世の影響があったのかも知れません。


「いかがなされました、シャーロットお嬢様? まだ気分がすぐれないのでしたら、横になられた方が……」

「大丈夫。ずっと寝ていたからかえって体が鈍ったみたいね」

 私の体調を案ずるクラリーチェに、何でもないことを伝えてから、メイドたちに手伝ってもらってクッションを背中に当て、斜めに半身を起こした姿勢でベッドに横になります。


「無理もございません。二階から落ちて三日もお目覚めになられなかったのですから。この三日間、皆も気が気ではなく、屋敷中火が消えたようなありさまでした」

 鏡を衣装箪笥にしまってきたクラリーチェが安堵の吐息とともにしみじみ口にすると、それに合わせて一斉に首肯するメイドたち(彼女たちも皇国、もしくはエテュアン国の高位貴族令嬢ばかりです)。


「そう……心配かけてごめんなさいね、クラリーチェ。それに皆も」

「とんでもない! シャーロットお嬢様には何一つ落ち度はございません。問題なのは屋敷の保守を怠った主任のバートと部下の大工たちでございます。皇国の至宝たるお嬢様を傷つけ、危うく失うかも知れない失態を犯したあの者たちは極刑に処し、さらには一族郎党連座で――」

「ちょっ――!」

 さすがにそれはやり過ぎではないかしら。仮にも法治国家なのですから(まあ皇族はほぼ例外が適用されますが)、管理不行き届きとして相応の罰を――仮にも使用人として長年仕えてくれた人間なのですから、内々に叱責する程度で問題ないと私などは切に望みますが、信賞必罰(しんしょうひつばつ)がこの世界の習いである以上、たとえ過失であったとしても責任の所在は明確にしてペナルティを――与えればいいと思うのですが……。


 長年の付き合いでそんな私の心情を先読みしたのでしょう。冷たい怒りに燃えていたクラリーチェですが、ふっとわずかに表情を和らげて街屋敷(タウンハウス)の保守主任であるバートとその部下たちの今後の進退について付け加えます。

「不幸中の幸いでシャーロットお嬢様がお目覚めになられたことで、さすがに極刑ということは――個人的には八つ裂きにしても飽き足りませんが――後ほど大旦那様も、取り急ぎ宮廷よりお戻りになられるとの連絡がございましたので、お戻りになられてから改めて沙汰が下るかと存じます」


 途中でさらりと憤怒に燃える胸の内を口の端に乗せながら、そう言ってクラリーチェは恭しく腰をかがめて一礼をしました。

 ここで言う大旦那様というのは、現グルーバー大公領領主であらせられるFerdinand(フェルディナン)()Delfino(デルフィーノ)()Gruber(グルーバ)皇国大公閣下であり、私と同じ(と言うか私が受け継いだわけですが)皇族の証である白金の髪と菫色の瞳を持った、直系祖父に当たる人物です。


 この方の凄いところはその出自にあり、当時の皇帝陛下(女性だったので女帝陛下ですが)の継嗣として生まれながらも、ほぼ同時に生まれた双子の弟との唇歯輔車(しんしほしゃ)――権力争いによって国が荒れることを憂慮して、わずか七歳にして母である女帝陛下に直訴してドロップアウト。

 半ば自治領である大公領と大公位、ついでにまだ発展途上だった藩属国のエテュアン国を賜り(合わせると本国であるアエテッナァ皇国の三割強の地を支配しているでしょうか)、現在は五年ほど前に崩御なされた先帝(双子の弟に当たる人物)に代わって、紆余曲折を経て皇帝となられた甥にあたるGregorio(グレゴリオ)帝を補佐するため、領地経営は信頼できる部下に任せて皇都と宮廷に詰めっきりになっています。


 本来、望めば玉座を得られる人物(それも先帝陛下と同じ顔をした)がそれを辞退し、十分な大義名分をもって甥に譲歩し、皇帝陛下を支えることを買って出たのですから内心では不満がある者も――実は一番不満に思っていたのが、当のグレゴリオ帝であることに大多数の者は気づかないか、察していても過小に見積もっていたのですが、そのことを思い知るのはもう少し後のことでした――納得するしかありませんでした。

 そんなお忙しいお爺様が国政を放り投げて駆けつけてくるというのですから、これには私も仰天しました。


 思わず目を見開いた私の驚愕を察して、クラリーチェが慈愛に満ちた微笑みを浮かべます。

「ええ、それはもう大旦那様も見るもおいたわしいほどお嬢様の心配をなされて、毎夜遅くまで看病なされていたほどでございます。お嬢様がお目覚めになられたという一報を聞いては、もはや仕事どころではないでしょう」

「まあ……そんな」

 溺愛されているという自覚はありましたけれど、アエテッナァ皇族としての価値ありき、という意識もまたあったので、思いもよらぬありきたりな祖父と孫娘……家族としての無償の愛を聞かせられて、驚きと感動で胸がいっぱいになりました。


 と、そこへ扉をノックする音がしてクラリーチェが許可を与えると、執事のひとりが恭しく寝室へ一歩足を踏み入れ、

「失礼いたします。ただいま正面玄関にお客様がお見えになっているのですが――」

 どことなく困惑……というか奥歯に物が挟まったかのような物言いで要件を口に出します。


「お客様? お爺様がお帰りになったのではなくて?」

 思わず発した私の問いかけに、「はい」と簡潔に首を縦に振る執事。


「……今日、どなたかお見えになる予定があったの?」

「いいえ。お嬢様の体調不良を理由にすべての予定をお断りしております」

 クラリーチェに確認するも、彼女も心当たりがないようで当惑した表情で小首を傾げています。


 困惑する私たちに向かって、執事が非常に、極度に、殊の外恐縮した風情で、来客を名乗る人物の名前を口に出しました。

「……Oliviero(オリヴィエーロ)王子…殿下でございます」

「「…………」」

 途端、私とクラリーチェのみならず、室内にいたメイドたちまでが一斉にあからさまな動揺と、奇妙な納得とで黙りこくります。


「……ええと、先ぶれとかは?」

 王侯貴族が他人の屋敷を訪れる際は事前に先ぶれを出して、アポイントメントの許可を得ることが常識です。

 念のために執事さんにそのことを確認したのですが、どこか吐き捨てるような口調で一言、

「あるわけがありません。――お見舞いだそうで、スノードロップの鉢植えを抱えて来られました」

「「…………」」

 うわ~~とという、ドン引きの沈黙が部屋全体を覆いました。


 病人の見舞いに鉢植えを持ってくるのもマナー違反ですが、『スノードロップ=花言葉「あなたの死を望みます」』など言語道断です。

魔法も魔獣もまだ出てこないのにハイファンタジーでいいのか悩む今日この頃。

次回更新は8/1を予定しています。


評価、感想などいただけましたら作者のモチベーションも持続いたしますので、是非ともよろしくお願いいたします★★★★★

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[一言] 猛暑に第七波と踏んだり蹴ったりですが 体調にはくれぐれも気を付けてお過ごしください。 主に私の娯楽のために。。。
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