第二十四話 焚き火
夜が訪れた。
廃都は昼とは違い。
静かな時間が流れていた。
ヴァスキさんは周囲の見回りへ。
レンは少し離れた場所で身体を休めている。
そして。
「とびっきり美味しいご飯にするから〜。」
焚き火の向こうから。
のんびりした声が聞こえてきた。
振り向くと。
カグツさんが鍋をかき混ぜている。
思わず見つめてしまう。
なんて、生活力のある王様なんだろう……。
推せる。
湯気が立ち上る。
どこか懐かしい香りがした。
「ヒカリ。」
静かな声が聞こえた。
視線を向ける。
ヴェル様が焚き火を見つめたまま座っていた。
炎が。
白金の髪を柔らかく照らしている。
風の神国で別れて以来。
こうして二人で話すのは。
初めてだった。
私は深呼吸を一つした。
「あ、あの…!」
「お、お隣、よろしいでしょうか!?」
ヴェル様は私を見ると。
ふっと笑った。
「くすっ。」
「なんだい。」
「その言い方は。」
「おいで。」
「し、失礼します!」
私は慌てて隣へ腰を下ろす。
わわわ……。
なんだろう。
みんなと一緒の時は。
そんなに緊張しなかったのに。
二人きりだと、なんだか緊張する。
パチパチと。
薪が音を立てる。
焚き火の火が。
静かに揺れていた。
「……お仕事。」
「大丈夫なんですか?」
ヴェル様は炎を見つめたまま頷く。
「シュルティの弟がね。」
「水の神国への留学を終えて、戻ってきたのだよ。」
「彼は神童と呼ばれるほど優秀でね。」
「姉弟に頑張ってもらっている。」
「だから問題はないだろう。」
(そういえば。)
(シュルティさん。)
(弟さんがいるって言っていたような。)
ヴェル様はゆっくりと私へ視線を向けた。
「ヒカリ。」
「ずいぶん成長したな。」
「出会った頃は。」
「まるで幼子のようだったのに。」
ぽん。
優しく頭へ手が置かれる。
「……あの。」
「私。」
「もう十七歳なんです。」
「あと一年もしたら。」
「成人なんですからね。」
ヴェル様は少しだけ目を丸くし。
穏やかに笑った。
「それは失礼した。」
思わず笑ってしまう。
「……ありがとうございます。」
「色々話してくださって。」
「助けに来てくださって。」
「本当に。」
「ありがとうございました。」
ヴェル様は静かに頷く。
「礼など。」
「言わなくていい。」
「解決しなければならないことは。」
「たくさんある。」
「…元の世界へ帰れるといいな。」
私は小さく頷く。
焚き火が静かに揺れた。
その時だった。
レンが無言で歩いてくる。
そして。
私とヴェル様の間へ。
当然のように腰を下ろした。
……。
……。
「なーんで、こんな狭いところに?」
レンは焚き火を見つめたまま。
「……別に。」
それだけだった。
ヴェル様は小さく微笑む。
私は首を傾げる。
焚き火の前には。
三人並んで座るには。
少しだけ窮屈な空間ができていた。




