第九話 役に立ちたい
愛すべきスマホがない今、意外にも本にハマってしまった。
もちろん動画も見られないし、ゲームもできない。
SNSなんて論外だ。
最初は暇で仕方なかったけれど、本を読み始めてからは少し違った。
なんといっても、この世界の文字は全部読める。
もしかして私、翻訳家としてデビューできるのでは?
そんなことまで考えた。
……無理だったけど。
読める。
読めるのだ。
だが書けない。
文字を見れば意味は分かる。
なのに、いざ書こうとすると手が止まる。
実に悲しい。
半端な能力だった。
お世話になっている風の神国は、まさかの浮遊大陸。
しかも一つではない。
大小様々な島が空に浮かんでいる。
初めて知った時は本気で驚いた。
どのくらい高い場所にあるのか。
落ちたらどうなるのか。
気になるけれど、考えると少し怖い。
図書室への出入りが許可されてからは、本ばかり読んでいる。
特に探していたのは、私が元いた世界についての記述だ。
帰る方法。
それが無理でも。
せめて、私と同じような人がいなかったか。
異世界。
別世界。
異界。
呼び方は何でもいい。
とにかく帰る手掛かりが欲しかった。
けれど。
そんなものはどこにもなかった。
考えてみれば当然かもしれない。
現代日本だって、他の星の生命体についての特集はあった。
けれど異世界特集なんて見たことがない。
そんなものが本当にあるなら、とっくに大ニュースだ。
「ヒカリ」
本から顔を上げる。
声を掛けてきたのは図書室の神官さんだった。
「少しお願いしたいことがありまして」
そう言って差し出されたのは古い本だった。
表紙は擦り切れ、紙も黄ばんでいる。
慎重に開いてみる。
古い文字。
けれど問題なく読めた。
「えっと……この部分は、秋の祭事について書かれてますね」
私が読み上げると、神官さんは嬉しそうに頷いた。
「助かります」
どうやら古い文献の解読を手伝ってほしいらしい。
私自身は特別なことをしているつもりはない。
ただ読んでいるだけだ。
けれど古い文字は読める人が限られているらしい。
もちろん断る理由はなかった。
むしろ少し安心した。
衣食住を提供してもらい、本まで読ませてもらっている。
正直、申し訳ない気持ちはずっとある。
だから何か役に立てるのなら嬉しかった。
「こちらもお願いできますか?」
気付けば別の神官さんが本を抱えて待っていた。
思わず苦笑する。
どうやら思った以上に仕事がありそうだ。
「はい」
そう答えながら、私は次の本を受け取った。
帰る方法はまだ分からない。
けれど。
もしかしたら。
この世界で初めて、自分の役割を見つけたのかもしれない。




