第十二話 死者は生き返らない3
「やぁ。」
カグツさんが片手を上げる。
「そこの怪しい君。」
青年がゆっくり振り返る。
フードの隙間から。
黒に近い紫色の髪が揺れた。
「亡くなった人たちが消える事件。」
「君、知ってる?」
「……。」
一瞬だけ。
青年が目を細める。
「火の神王。」
「思ったより早かったね。」
「おや。」
「顔まで知ってるほどの有名人だったかい。」
「まぁね。」
「貴方は要注意人物だから。」
ヴァスキさんが小さくため息をつく。
「カグツ様。」
「もう少し遠回しというものをですね。」
「まどろっこしいのは嫌いなんだ。」
カグツさんは笑った。
青年は、その笑顔をじっと見つめる。
「器としては欲しいけど。」
「勝てそうにない勝負はできないな。」
思わず首を傾げる。
「器?」
「おいおいおい。」
カグツさんが苦笑する。
「おじさん。」
「本気出しちゃいそう。」
周囲に火の神力が立ち込める。
青年は答えない。
ただ。
静かに口を開く。
「分かっているんだろう。」
「私が何をしているか。」
「分かっていることを問い掛けるほど。」
「愚かな王ではないと思っているが。」
「えぇ〜。」
「愚か、なんてひどいなぁ。」
「こんなに頑張ってるのに。」
青年は小さく息を吐く。
「とりあえず。」
「こちらは無駄足になってしまったからね。」
「また別の器を探さなければならない。」
「どうせ。」
「お前は我が君とは相容れない。」
「いつか。」
「器として利用できることを祈っているよ。」
次の瞬間。
青年の姿が揺らぐ。
「逃がしません!」
ヴァスキさんが踏み出す。
しかし。
青年は笑った。
「また会おう。」
その一言だけ残し。
十数人の死者と共に。
跡形もなく消え去った。
静寂が戻る。
「ふむ。」
カグツさんが顎へ手を添える。
「消えたな。」
「……全く痕跡がありません。」
ヴァスキさんが辺りを見回す。
「転移する能力、かなり希少なものですね…」
「実際に見ると厄介です。」
「ん〜。」
カグツさんは空を見上げる。
「しかも。」
「転移の力と。」
「死者を操る力。」
「これは別のものの仕業だろうなぁ。」
ヴァスキさんが頷く。
「少なくとも。」
「こちらの行動は向こうへ知られました。」
「拠点を移した方が良さそうですね。」
「だなぁ。」
カグツさんは苦笑する。
「温泉。」
「もっと堪能したかったよ。」
「はいはい。」
ヴァスキさんは静かにため息をついた。




