第八話 父上さん来襲
女湯を出て。
私は宿の廊下で二人を待っていた。
「あれ?」
珍しい。
レンとヴァスキさんが、私より遅いなんて。
肩に止まったピンクちゃんを指先でそっと撫でる。
「ここか〜。」
「ここが良いのか〜。」
「ピ、ピィ〜。」
満足そうに目を細める。
可愛い。
そのまましばらく遊んでいると。
「……お待たせしました。」
ヴァスキさんが姿を見せた。
「いえいえ、私も出たところ、なので……」
思わず首を傾げる。
「……温泉に入ったのに、何でそんなに疲れてるんですか?」
「いえ。」
ヴァスキさんは小さく苦笑した。
何だろう。
歯切れが悪い。
その時だった。
「ん?」
二人の後ろに。
もう一人、人影が見えた。
腰まで届く長い紺色の髪。
毛先に向かって赤く染まる髪色。
色白の肌。
しっかり鍛えられた身体。
レンとどこか似た面差しなのに。
その表情はどこか凛々しい。
自然と目を奪われる。
……え。
な。
な、な、なにこの人。
めちゃくちゃ格好いい!!!!!
私が固まっている横で。
ヴァスキさんは深く息を吐いた。
「……とりあえず。」
「部屋へ移動しましょう。」
◇◇◇
部屋へ戻ると。
ヴァスキさんが口を開く。
「……こちらの方ですが――」
「カグツだ!」
元気よく遮られた。
「レンが可愛い女の子と一緒に旅して、こちらへ向かっていると聞いて。」
「思わず来てしまったよ。」
レンとイケメンの二人を見る。
「……まさか。」
「父上さん、ですか?」
「そうだよ。」
「父上だなんて照れちゃうな!」
こここここここ。
このイケメンが。
レンの父上さん!?
開いた口が塞がらない。
ヴァスキさんは額へ手を当てた。
「なぜ、神王自らこのような場所にいらしているのですか。」
「合流場所は別途指定したはずですが。」
「ヴァーーースキ君。」
カグツさんは笑う。
「そんなカッチカチじゃダメだよ〜。」
「敵にどこで情報が漏れてるか分からないんだから。」
「……確かに一理ありますね。」
「何より。」
「レンが火の国へ入った時点で、私はもうこっちへ向かってたから。」
「合流場所なんて聞いてないよ。」
「ちょ!」
「会えなかったらどうするつもりだったんですか!」
「まぁ。」
「何とかなるだろ?」
「道は繋がってるんだから。」
ヴァスキさんが。
げっそりしている。
こここここここ。
このイケメンがレンの父上さん!?
待って。
ペンライト。
ネーム入りの団扇。
どこ。
アイドルとか。
今まで全然興味なかったのに。
……今なら分かる。
推しって、こういうことなんだ。
語りたい。
この感動を。
同じ気持ちを持つ同志と語りたい!!
「……。」
「……。」
「……。」
部屋が静まり返る。
レンは小さく首を傾げた。
ヴァスキさんは、何とも言えない表情で私を見る。
そして。
カグツさんだけが。
笑顔のまま固まっていた。
「……えっと。」
カグツさんが言葉を探している。
「こういう時は。」
「何て返すのが正解なんだろうね?」
その一言で。
私は我に返った。
「…………。」
「あ。」
「何か聞こえました?」
「全部。」
レンが即答した。
もう埋めて欲しい。
【ヴァスキがげっそりしていた状況】
湯殿へ向かったところ。
湯気を背に、仁王立ちする男性が待ち構えていた。
「やぁ。」
「息子にヴァスキ。」
「遅かったね。」
……もちろん。
全裸である。
レン「あ、父上。」
ヴァスキ「……何故ここにいるんですか。」
カグツ「レンが来るって聞いたから。」




