第四話 向き、不向き
ヴァスキさんとレンの世界びっくり人間大会は。
ヴァスキさんの勝利だった。
なんというか、レンがギラギラしている。
いつもは気だるそうなのに。
「手加減までされるなんて、悔しいな」
珍しく悔しそうだった。
ヴァスキさんは静かに首を横へ振る。
「レンくんは、武器や神力の扱いが非常に上手です」
「素手だからこそ、この結果なんですよ」
「武器や神力込みでしたら、こうはいきません」
レンは何も言わない。
ただ。
「次は本気を出させてやる」
ぽつりと呟いた。
ヴァスキさんは小さく笑う。
「油断できそうにないんですけどね……」
◇◇◇
「ヒカリさん」
ヴァスキさんがこちらを向く。
「今のを見て、どう思いましたか?」
「……いや、ちょっと色々無理ですね」
即答だった。
「逃げる以前に全てが終わっているかと……」
私は小さく肩を落とす。
「安心してください」
ヴァスキさんは苦笑する。
「ヒカリさんに、あの戦い方を求めるつもりはありません」
「え?」
「向き、不向きがあります」
「ヒカリさんには、ヒカリさんにしかできない戦い方があります」
少しだけ胸を撫で下ろす。
……よかった。
あれを目指すわけじゃないらしい。
「ですが」
ヴァスキさんは表情を引き締めた。
「それでも、基礎体力は必要です」
「えぇ……」
思わず情けない声が漏れる。
「神力だけでは、どうにもならないことがあります」
静かな声だった。
「私は、そのような場面を何度も見てきました」
その一言だけで十分だった。
戦いを知る人の言葉。
だからこそ、重かった。
「まずは、生き残る力を身につけましょう」
「その上で」
「ヒカリさんの神力を伸ばしていきます」
私は小さく頷いた。
◇◇◇
「ヒカリさんは」
ヴァスキさんは少し考えるように口を開く。
「思いや気持ちが、神力を発動させるきっかけになっているようですね」
「気持ち……ですか?」
「ええ」
ヴァスキさんは頷く。
「花を元気にしたい」
「レンくんの傷を治したい」
「そういった強い思いが、そのまま神力の発動へ繋がっているのでしょう」
言われてみれば。
どちらも無意識だった。
「それでも構いません」
「ですが」
「イメージをより明確にできれば、応用も利くようになるはずです」
「応用?」
「例えば」
ヴァスキさんは一本指を立てた。
「本来、癒やす、復元する、創造するといった神力は、かなり高度な技術です」
「人体の構造を理解し」
「神力で欠損した部分を補い、元の状態へ戻す」
「非常に繊細な制御が求められます」
私は目を丸くした。
「……そんな難しいこと、考えてませんでした」
ヴァスキさんは苦笑する。
「だからこそ、不思議なのです」
「ヒカリさんは理屈ではなく」
「『治ってほしい』という思いだけで結果を実現している」
少しだけ目を細める。
「すごいことですよ」
思わず頬が熱くなる。
ただ。
治ってほしかっただけ。
それだけだった。
ヴァスキさんは続ける。
「治すことを実現できるのであれば」
「防ぐことも、できるかもしれません」
「防ぐ……?」
「ええ」
「傷を癒やすのではなく」
「そもそも傷を負わないようにする」
「そういった神力の使い方も考えられます」
私はゆっくりと頷く。
治す。
ではなく。
防ぐ。
そんなことまで、できるのだろうか。
「……ちなみに筋トレは継続ですか?」
ぽつりと呟く。
「継続です」
即答だった。
「……ですよねぇ」




