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星と呼ばれた少女  作者: さかい
火の神国
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第三話 転ぶ練習?


 護身術が始まった。


 ……始まってしまった。


 基礎は大切。


 そう。


 ヴァスキさんは言った。


「まずは体力です」


「はい……」


「そして」


「逃げることを覚えてください」


「逃げる?」


 思わず聞き返す。


「はい」


 ヴァスキさんは頷いた。


「戦わない勇気も、生き残るためには必要です」


 少しだけ表情を和らげる。


「それから神力ですね」


 ヴァスキさんは私を見つめ、少しだけ考える。


「これは私の予想ですが」


「きっとヒカリさんは攻撃には向いていません」


「えっ」


「ですから」


「守ることを覚えてください」


「それが、ヒカリさんの戦い方になります」


 私は小さく頷いた。


「では」


 ヴァスキさんが手招きする。


「まずは避けてください」


「はい!」


 ひゅっ。


 ころん。


「いたっ!」


 ……え?


「立ってください」


「は、はい!」


 立つ。


 ひゅっ。


 ころん。


「いたた……」


 レンは目を瞬いた。


「……」


 ぺしん。


 ころん。


 ぺしん。


 ころん。


 レンはヴァスキさんを見る。


 そして私を見る。


「……本気?」


 青ざめた声だった。


「ちょ、どういう意味よ?」


 レンは何も言わなかった。


 本当に避けられない。


 受け身も取れない。


 ……何もできない。


「……」


 ヴァスキさんは小さくため息をついた。


「ヒカリさん」


「はい……」


「まずは転び方から覚えましょう」


「えっ?」


「なぜ転ぶ練習?」


◇◇◇


 基礎練習というだけで、全身が筋肉痛になった。


 なんということでしょう。


 立つだけでも足が震える。


「少し休憩にしましょう」


 ヴァスキさんがそう言うと、私はその場へへたり込んだ。


「もう無理です……」


 その時だった。


 レンがヴァスキさんへ歩み寄る。


「ねぇ」


「なんですか?」


「手合わせしてよ」


 一瞬、静寂が流れる。


 ヴァスキさんは小さくため息を吐いた。


「……はぁ」


「嫌だと言っても、する気ですよね」


 レンは頷く。


「分かりました」


「ですが」


「武器と神力は禁止です」


「ヒカリさんに当たったりでもしたら大変ですからね」


 私は二人を見比べた。


 武器なし。


 神力なし。


 つまり素手。


(うんうんうんうん)


 神力なんて使われた日には、普通に死んでしまう。


 そんな確信だけはあった。


 でも。


 手合わせなら、さすがに常識の範囲内だろう。


 ――そう、この時の私は本気で思っていた。


◇◇◇


 その認識は、一瞬で砕け散る。


 目にも留まらない速さとは、このことなのだろう。


 気付けば。


 二人の姿が消えていた。


 いや。


 速すぎて見えていないだけだった。


 ――バァンッ!!


 拳と拳がぶつかる。


 耳をつんざく轟音。


 衝撃だけで木々が揺れる。


「…………」


 その、おてては何製なんだい?


 人の拳って、あんな音がするものだったっけ。


 とりあえず。


 ピンクちゃんを撫でくりまわし、癒やしを補充する。


 現実逃避は大事だ。


 私はもふもふを堪能しながら、目の前で繰り広げられる人智を超えた手合わせを観戦するのであった。


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