第二話 ぺしぺし、ぱんぱん
――来させない。
その言葉を聞いた瞬間。
胸がどきりと鳴った。
あの日。
ヴェル様の言葉。
『そんな日は来ない』
『来させない』
「…………」
思い出した。
抱き締められたことまで。
「~~~~っ!」
顔が熱い。
何を思い出してるの私!
いい匂いだった。
違う違う違う!
あれはそういう意味じゃなくて!
ぶんぶんと首を振る。
ぺし。
「わわっ!?」
肩を軽く叩かれた。
振り向く。
レンだった。
ぺし。ぺし。
「ん?」
ぱん。ぱん。
「な、なに?」
レンは手を止める。
真顔のまま私を見る。
そして。
ぎゅっ。
軽く抱き寄せた。
「……うん」
「はいっ!?」
何が「うん」なの!?
混乱する私を見て。
ヴァスキさんが不思議そうに首を傾げる。
「……何をしているんですか、二人とも」
「……ですよね」
「私にもよく分からなくて」
レンを見る。
本人は満足そうだった。
……ほんとに何?
結局分からないまま歩き始める。
しばらく歩いたところで、私はふと思った。
「あ」
「どうしましたか?」
「思ったんですけど」
「ヴァスキさんで飛んでいけば、もっと早く着きません?」
ヴァスキさんは少しだけ眉をひそめた。
「嫌ですよ」
「はい?」
「あんな目立つ姿で飛んでいたら、国中が大騒ぎになります」
「そ、そういうものなんですか?」
「そういうものです」
即答だった。
「討伐対象として攻撃されるかもしれないですし」
「それは困りますねぇ……」
私は素直に頷く。
その横で。
「……」
レンがぼそりと呟く。
「ちっ」
「そこ、舌打ちなんて行儀が悪いですよ」
即答だった。
ヴァスキさんは少しだけ遠くを見る。
「竜族は、おそらく私しか残っていないんですよ」
「え?」
私は目を丸くする。
「ヴァスキさんって、神族じゃないんですか?」
「神族ですよ」
ヴァスキさんは小さく頷く。
「ですが、一口に神族と言っても、様々な種族がいます」
「私は、その中の竜族です」
「へぇ……」
思わず感心する。
「私が竜族だということも、今ではヴェルと妻くらいしか知らないと思いますよ」
「シュルティさん、元気かな……」
ふと、優しい笑顔を思い出す。
そして。
(お二人の子供って、卵から生まれるのかな……)
絶対に口にしてはいけないことを考えてしまう。
……聞かないでおこう。
すごく知りたいけど、その方が平和だ。
「落ち込んでいましたよ」
ヴァスキさんは少し目を瞬く。
「だから、また会ってあげてください」
一瞬、沈黙が流れた。
「……ヴァスキさんって、愛妻家なんですね」
「……は?」
間の抜けた声だった。
「だって、シュルティさんのことになると、少し雰囲気が違いますし」
ヴァスキさんは小さく息を吐く。
「……普通です」
「え〜〜〜、なんか愛が感じられます〜〜〜」
「……」
あ、まずい。
目が……目が笑ってない。
「自分を守れるようになるのも重要ですよ? ヒカリさん」
誰か。
この調子に乗りやすい自分を止めてほしい。
……そして。
護身術の稽古が始まった。
卵生なのかも気になるし、どっちの姿で生まれるのかも気になっちゃう




