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星と呼ばれた少女  作者: さかい
水の神国
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第四十話 行きなさい

神殿の外は慌ただしかった。


姫巫女の死。


新たな神王の誕生。


突然の出来事に、誰もが落ち着きを失っている。


「急いでください」


アズルさんが言った。


その声は静かだった。


けれど、もう迷いはない。


新たな神王の声だった。


「“アレ”は必ず戻ってきます」


私は右手を見る。


いや。


正確には違う。


手首には、王の証である腕輪があった。


本来なら王と共にあるはずの神具。


「どうして、私にこれを?」


思わず聞いてしまう。


アズルさんは小さく微笑んだ。


「姫巫女様が守ろうとした未来です」


静かな声だった。


「私も守ります」


胸が苦しくなる。


姫巫女様はもういない。


それなのに、みんな前を向こうとしている。


「……ヒカリ」


低い声だった。


振り返る。


そこにいたのはヴェル様だった。


突然の別れ以来、ようやく会えた。


けれど、どこかやつれて見える。


緑の瞳の奥にも疲れが滲んでいた。


胸が痛む。


「ヴェル様」


名前を呼ぶ。


次の瞬間だった。


強く腕を引かれる。


「――っ」


気付けば抱き締められていた。


息が止まる。


抱き締める腕に力が入る。


まるで。


消えてしまわないことを確かめるように。


「……生きていてくれて、良かった」


震えるような声だった。


私は何も言えなかった。


ただ。


胸の奥が熱くなる。


抱き締められたまま。


ほんの少しだけ。


ヴェル様の服を握り返した。


しばらくして。


ヴェル様はゆっくりと身体を離した。


けれど。


その手は最後まで私の手を離さなかった。


そして真っ直ぐ私を見る。


離れてから、ずっと考えていた。


ずっと伝えたかったことがある。


今なら言える気がした。


小さく息を吸う。


「あの日」


「あの時言っていたこと」


ヴェル様の表情が僅かに変わる。


「もし」


言葉を続ける。


「私が皆さんにとって危険な存在になったら」


夜風が頬を撫でた。


「その時は」


私は微笑んだ。


「お願いします」


ヴェル様は何も言わない。


ただ私を見つめていた。


「そうならないと信じたいですけど」


私は空を見上げる。


星が輝いている。


「でも」


視線を戻す。


「皆さんなら、きっと止めてくれると思うから」


静かに首を横に振る。


「そんな日は来ない」


低く、強い声だった。


「来させない」


緑の瞳が真っ直ぐ私を見る。


迷いなく。


逃げることなく。


そして小さく息を吐いた。


「近いうちに」


私は目を瞬く。


「知っていることを」


一度言葉を切る。


緑の瞳が揺れる。


「すべて話そう」


ヴェル様は静かに続ける。


「今は行きなさい」


その瞬間だった。


巨大な影が落ちる。


「え?」


見上げる。


黒い鱗。


黄金の瞳。


巨大な竜。


次の瞬間。


身体が浮いた。


「きゃああああ!?」


何かに掴まれている。


巨大な爪だった。


「ちょっ――」


「待っ――」


抵抗する間もない。


ぐんっと身体が持ち上がる。


ヴェル様が小さく頷いた。


それだけだった。


次の瞬間。


轟音。


巨大な翼が広がる。


吹き荒れる風。


神殿が。


湖が。


みるみる小さくなっていく。


「ちょっとぉぉぉぉ!?」


私は必死に叫ぶ。


けれど返事はない。


遥か下。


ヴェル様がこちらを見上げていた。


その姿も。


やがて夜の闇に溶けていく。


そして――


私たちは空の彼方へ消えていった。


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