第三十九話 終わりと始まり
歌がやんだ。
静寂。
誰も言葉を発しない。
夜風だけが静かに吹いていた。
そして。
その瞬間だった。
姫巫女の身体を包んでいた光が消える。
ふわりと。
青い光が空へ舞い上がった。
優しく。
暖かく。
まるで別れを告げるように。
誰も動けなかった。
ヒカリも。
レンも。
ヴェルも。
ただ見つめていた。
終わりだった。
五百年続いた時代が。
静かに幕を閉じた。
そして。
始まりでもあった。
青い光が一人の青年へ集まる。
アズルだった。
光は彼を包み込み。
やがて右手首へ集まっていく。
眩い輝き。
そして。
一つの腕輪が姿を現した。
誰もが知っている。
その意味を。
新たな神王が誕生したのだ。
アズルは黙ったまま右手を見る。
腕輪が淡く光っていた。
その光は。
あまりにも優しかった。
「アズルさん……」
ヒカリが声をかける。
けれど。
返事はない。
アズルは静かに姫巫女を見つめていた。
穏やかな寝顔だった。
今にも目を開きそうなほど。
安らかな顔だった。
やがて。
アズルはゆっくりと立ち上がる。
そして。
ヒカリへ視線を向けた。
その瞳には。
もう迷いはなかった。
「ヒカリさん」
静かな声だった。
「逃げてください」
私は目を瞬く。
「え?」
アズルは続ける。
「貴方の居場所は知られました」
「アレは必ず戻ってきます」
背筋が冷える。
あの女。
アストリッドの姿をした存在。
「ですが」
アズルは右手を見る。
王の証。
新たに受け継ぎ、生まれた神具。
本来なら。
王と共にあるべきもの。
決して手放してはならないもの。
アズルは静かに目を閉じた。
そして。
小さく息を吐く。
「姫巫女様なら」
小さな呟き。
「きっと同じことをしたでしょう」
右手が腕輪へ触れる。
青い光が揺れた。
周囲の空気が張り詰める。
「アズルさん……?」
けれど。
アズルの手は止まらない。
ゆっくりと。
腕輪を外す。
その瞬間。
淡い光がふわりと舞った。
まるで。
姫巫女が背中を押してくれたように。
そして。
ヒカリへ差し出した。
「持って行ってください」
腕輪が淡く光る。
まるで応えるように。
「水の王は」
「貴方の力になります」
一瞬だけ言葉を切る。
そして。
静かに続けた。
「いつか」
「必ず必要になる時が来ます」
夜風が吹く。
私は差し出された腕輪を見る。
まだ温かかった。
まるで。
姫巫女様がそこにいるみたいに。
終わりと始まり。
別れと旅立ち。
全てが。
静かに動き始めていた。




