第三十六話 鏡の世界
世界が白く染まった。
次の瞬間。
轟音。
神殿最上階が吹き飛ぶ。
夜空へ神力が噴き上がった。
湖面が揺れる。
空気が震える。
まるで天災だった。
「なかなかやるじゃないか」
女が笑う。
瓦礫の上。
傷一つない。
姫巫女もまた。
静かに立っていた。
鏡面が揺れる。
水面のように。
そして。
そこから一人の女が現れた。
金色の髪。
蒼い瞳。
女と同じ姿。
女の笑みが消える。
「それは――」
鏡面が再び波打つ。
水面へ石を落としたように。
一つ。
また一つ。
波紋の中から女が現れる。
やがて。
月明かりの下に並ぶ。
幾人ものアストリッド。
全て同じ顔。
全て同じ神力。
どれが本物か見分けはつかない。
「未来を見るだけが」
姫巫女は微笑んだ。
「私の力ではありませんのよ」
次の瞬間。
全てのアストリッドが同時に動く。
轟音。
神力が激突する。
女の表情から笑みが消えた。
初めてだった。
「本当に」
「面倒だな」
低い声。
神殿が震える。
床が崩れる。
柱が砕ける。
戦いは既に。
建物が耐えられる規模ではなかった。
◇◇◇
「何あれ!?」
私は思わず叫んだ。
神殿の上空。
青白い光が夜空を染めている。
爆発音まで聞こえる。
「姫巫女様……」
アズルの顔色が変わった。
レンも空を見上げている。
その瞳が、わずかに揺れた。
そして。
小さく呟いた。
「間に合わない」
その言葉に。
胸が嫌な音を立てた。
夜空では。
青白い光がなおも広がっていた。
まるで。
水の神国そのものが悲鳴を上げているようだった。




