第二十八話 違和感
姫巫女様から呼び出しを受けた私たちは、神殿へ向かっていた。
アズルさんは、別件があるとのことで姫巫女様のところで合流予定らしい。
静かな廊下だった。
窓から差し込む光が白い床を照らしている。
その時だった。
「あれ?」
思わず足を止める。
少し先。
柱のそばに一人の女性が立っていた。
長い金髪。
透き通るような白い肌。
息を呑むほど美しい。
けれど。
見た瞬間。
胸の奥がざわついた。
見覚えがある。
どこでだっただろう。
女性がゆっくりとこちらを見る。
目が合った。
その瞬間。
女性の口元が。
にやりと歪んだ。
ぞくり。
全身に寒気が走る。
「ねぇ」
女性が歩み寄ってくる。
「君は、誰、なのかな?」
怖い。
理由は分からない。
でも。
本能が警鐘を鳴らしていた。
「あ、あの……」
思わず後ずさる。
「姫巫女様に呼ばれていて……」
女性はぱちりと目を瞬いた。
そして。
くすくすと笑う。
「そっちこそ誰?」
レンが庇うように前に出る。
女性は楽しそうに笑う。
「私?」
胸に手を当てる。
「星を救う救世主、かな」
頭がおかしいのだろうか。
思わずそう思った。
顔に出てしまったのか、女性は残念そうに肩を竦める。
「本当なのに」
そして。
その視線が私からレンへ移った。
「へぇ」
女性が目を細める。
「勿体無いなぁ」
「キミ、すごく強いのに」
「”混じりモノ”なんだね」
レンが首を傾げる。
「混じりモノ?」
「神族と人間の子」
女性はあっさり答えた。
「ああ」
レンは納得したように頷く。
そして。
不思議そうな顔をした。
「それの何が駄目なの?」
女性は一瞬だけ黙った。
それから。
少しだけ笑う。
「別に?」
「ただ、勿体無いと思っただけ」
そう言いながらも。
その瞳はどこか冷たかった。
私は無意識にレンの前へ出る。
女性はそれを見て楽しそうに笑った。
「面白いね」
そして。
再び私を見る。
「探しものがあるんだ」
心臓が跳ねた。
「新しい世界を作るための」
「私の道具」
ピィッ!
ひよこが鋭く鳴く。
女性は目を細めた。
「……うん」
「キミだね」
「――何をしている」
低い声が響いた。
振り返る。
神官服を纏った男が立っていた。
女性は露骨に顔をしかめる。
「もう来たの?」
「勝手な行動は控えていただきたい」
男は硬い声で言った。
「我が君」
その呼び方に。
なぜか胸がざわつく。
女性は肩を竦めた。
「少し話していただけだよ」
「計画に支障が出ます」
「支障?」
女性は笑う。
「むしろ確認できた」
男の表情が険しくなる。
「行きましょう」
「はいはい」
女性は気のない返事をした。
そして。
去り際。
もう一度だけ私を見る。
「ようやく見つけた」
小さな呟き。
それだけを残して。
二人は廊下の向こうへ消えていった。
私はしばらく動けなかった。
胸の奥がざわつく。
嫌な予感がした。
理由は分からない。
けれど。
あの女性に。
もう二度と会いたくないと思った。




