第二十七話 見えるもの
その夜、私は星空の中にいた。
何度も訪れた場所。
静かな世界。
けれど。
今日は少し違った。
「……あれ?」
私は思わず足を止める。
白い髪。
紫の瞳。
整った顔立ち。
今まではぼんやりだった姿がはっきり見えている。
なぜだろう。
初めて見る気がしなかった。
相手も少し驚いたようだった。
「見えるようになったんだね」
少年が少し驚いたように言う。
「……みたい」
大事なことは、見える見えないではない。
なので。
私は近付いた。
「?」
首を傾げる少年。
さらに近付く。
そして。
両手で頬を掴んだ。
むにーーーっ。
「……何でだい?」
「よーーーーくも顔を出せたものね!」
さらに引っ張る。
「人を森の中に置き去りにして、説明もなく消えて!」
今まで散々苦労したのだ。
少しくらい許されると思う。
「痛い、気がする……」
「痛くしてるの」
当たり前だ。
私の苦労と同じ分の痛みを与えないと気が済まない。
「ふふ、痛みなんて忘れていたなぁ」
全然反省していない。
私はようやく手を離した。
少年は頬を擦る。
少しだけ気が済んだ。
「それで?」
腕を組む。
「何か用でもあるの?」
少年は小さく笑った。
「神力」
「上手になったね」
私は目を瞬く。
「分かるの?」
「もちろん」
当たり前のように言う。
紫の瞳が細められる。
「ちゃんと掴み始めてる」
「自分の力を」
少しだけ嬉しかった。
褒められるとは思っていなかったから。
「ありがとう」
そう言うと。
少年は少しだけ目を丸くした。
そして。
優しく微笑む。
何だろう。
胸の奥が少しだけ温かくなった。
けれど。
次の言葉で。
その空気は変わった。
「でも」
少年は静かに空を見上げる。
「気を付けて」
私は首を傾げた。
「?」
紫の瞳が揺れる。
どこか遠くを見るように。
少しだけ悲しそうに。
「闇に落ちた風が」
短い沈黙。
「キミを見つけようとしている」
意味が分からなかった。
闇に落ちた風。
聞いたこともない。
けれど。
なぜだろう。
胸の奥が冷たくなる。
「それって何?」
問い掛ける。
少年は首を横に振った。
「今はまだ話せない」
「また?」
思わず頬を膨らませる。
少年は困ったように笑った。
私はため息を吐く。
どうしてこの人は。
いつも大事なところだけ教えてくれないのだろう。
「覚えていて」
少年が静かに言う。
「キミが思っているより」
「キミの周りには」
「たくさんの人がいるから」
風が吹いた。
優しい風だった。
どこか懐かしい。
不思議な風。
「じゃあね」
少年が微笑む。
「え?」
景色が揺れる。
星空が遠ざかっていく。
「ちょっと!」
まだ聞きたいことがあった。
名前も。
正体も。
何も知らない。
けれど。
最後に見えた紫の瞳は。
どこか安心したように笑っていた。
◇◇◇
翌朝。
目を覚ました私は。
しばらく天井を見つめていた。
ただの夢ではない。
白い髪も。
紫の瞳も。
はっきりと思い出せる。
そして。
胸の奥には。
不思議な言葉だけが残っていた。
闇に落ちた風が。
キミを見つけようとしている。




