第六話 綺麗な人
目の前では書類が次々と片付いていく。
めくる。
目を通す。
署名する。
また次。
その動作は、本当に内容を確認しているのか疑いたくなるほど速かった。
白金色の髪が窓から差し込む光を受けて輝く。
まるで光そのものを編み込んだみたいだった。
角度によっては淡く虹色を帯びて見える。
背中まで届く長い髪は結ばれていない。
綺麗な人。
初めて会った時も現実味のない美貌を持っていたけれど、再び会っても凄まじい破壊力だ。
数日前。
この人が風の神国の王だと教えられた。
正直、今でも少し信じられない。
失礼だと思いながらも、つい視線が向いてしまう。
綺麗なものは見ていて飽きない。
王様は書類に目を落としたまま、こちらを気にする様子もなかった。
どれくらい経っただろう。
最後の書類に署名を終えた王様が、ようやく顔を上げた。
澄んだ新緑色の瞳が私を見る。
「待たせたな」
「いえ」
実際にはかなり待った気がするけれど。
王様は忙しそうだったし、文句を言うつもりもなかった。
「手を」
「え?」
突然の言葉に間の抜けた声が出た。
王様は少しだけ首を傾げる。
「どちらでも構わない」
理由の説明はない。
私は戸惑いながら手を差し出した。
王様は私の手を取る。
ひんやりとしていた。
その瞬間だった。
首元の大きな宝石が淡く光る。
本当に一瞬。
気のせいかと思うほど弱い光。
けれど。
私は確かに見た。
部屋の空気が変わる。
ヴァスキさんが目を細めた。
王様は私の手を握ったまま、じっと何かを探るように目を伏せている。
長い沈黙。
やがて。
王様はゆっくりと手を離した。
「えと、何か分かりましたか?」
思わず尋ねる。
王様は少しだけ眉を寄せた。
「……分からない」
その言葉は。
誤魔化しではなく、本当に分からないように聞こえた。
世界で一番偉い人でも。
私が何者なのか分からないらしい。




