第二十五話 分かっていること
「貴方は」
「本当に異世界から来たのでしょうか」
その言葉に。
私は何も答えられなかった。
異世界から来た。
そう思っていた。
そう信じていた。
けれど。
もし違うのだとしたら。
私は一体。
何者なのだろう。
青年は静かに続ける。
「可能性の話です」
「未来」
「過去」
「別の時間軸」
「あるいは」
少しだけ言葉を選ぶ。
「私たちがまだ知らない何か」
資料館は静かだった。
本をめくる音だけが響く。
「あくまで」
青年は苦笑した。
「仮説として、考えられる可能性の話です」
私は俯く。
頭の中がぐるぐるしていた。
異世界。
時間。
星。
星の欠片。
神託。
何も分からない。
「……仮定の話は」
声が割り込んだ。
青年が言葉を止める。
レンだった。
いつの間にか本から顔を上げている。
「何でもできるからね」
淡々とした口調だった。
責めているわけではない。
ただ。
事実を言っているだけだった。
「未来、過去、異世界」
レンは肩を竦める。
「全部」
「証明できない」
青年は静かに頷いた。
否定はしない。
レンは私を見る。
赤茶色の瞳が真っ直ぐ向けられる。
「ここにヒカリがいる」
短い言葉だった。
「分かっている事実は」
「それだけだよ」
私は目を見開く。
レンはそれ以上何も言わなかった。
また本へ視線を戻す。
それだけだった。
けれど。
私は、今、ここにいる。
ここにいていいって、言われた気がして。
胸の奥が少しだけ軽くなった気がした。
◇◇◇
資料館を出た後も。
私は考えていた。
考えれば考えるほど分からなくなる。
「……」
「……」
気付けば黙り込んでいた。
隣を歩くレンがこちらを見る。
そして。
小さくため息を吐いた。
「あーあ」
私は顔を上げる。
「?」
レンはどこか呆れた顔をしていた。
「しばらく言うつもりなかったのにな」
意味が分からない。
「なにが?」
レンの口元が少しだけ上がる。
「内緒」
「えぇ……」
思わず声が漏れる。
レンは肩を竦めた。
「そのうち分かるかもね」
絶対面白がっている。
私はじとっと睨む。
けれど。
レンは全く気にしていない。
「それより」
話を切り替えるように言った。
「美味しいもの食べに行こう」
私は瞬きをする。
「え?」
レンは当然のように続けた。
「考えても分からないんでしょ」
反論できなかった。
レンは少しだけ笑う。
「お腹も空いてきたし」
思わず吹き出してしまう。
さっきまで頭の中を埋め尽くしていた不安が。
少しだけ遠くなった気がした。
小鳥が。
「ぴぃ」
と鳴いた。
まるで賛成するみたいに。
名前、しばらく呼ぶつもりなかったのにね〜。
にやにや。




