第二十二話 小さな火種
神殿を出る。
湖から吹く風が頬を撫でた。
気付けば。
ずっと力が入っていた肩から力が抜ける。
姫巫女様との会話は。
思っていた以上に疲れるものだった。
神託。
未来。
星の力。
黒い雷。
そして。
ヴェル様。
情報量が多すぎる。
なんだかもう。
よく分からなくなっていた。
最後に見たヴェル様を思い出す。
焦っていたような。
悲しそうだったような。
でも。
探してくれていたらしい。
胸の奥が少しだけざわついた。。
「何だか騒がしいね」
レンの声で我に返る。
気付けば。
街は少し賑やかになっていた。
橋には花が飾られ。
水辺には灯りが並んでいる。
行き交う人々も。
どこか浮き立って見えた。
「お祭りかな?」
「……この時期は花火があったような」
私は目を丸くする。
「花火?」
「うん」
相変わらず興味なさそうな返事だった。
私は思わず街を見渡した。
湖の上の街。
静かな水路。
行き交うゴンドラ。
そこへ花火まで加わるのだろうか。
「へぇ」
「ゴンドラから見る花火とか素敵じゃん」
思わず呟く。
すると。
レンがあっさり言った。
「じゃあ見よう」
私は瞬きをする。
「え?」
「せっかくだし」
あまりにも自然な口調だった。
「全然興味なさそうなのに?」
思わず聞いてしまう。
レンは少しだけ首を傾げた。
「みたいんでしょ?」
私は言葉に詰まる。
「いいよ」
「僕も見たことなかったし」
意外だった。
「見たことないの?」
「ない」
即答だった。
「なんか意外」
「そう?」
気付けば。
少しだけ頭が軽くなっていた。
神託も。
未来も。
星の力も。
今すぐ答えが出るものじゃない。
だったら。
今日くらいは。
難しいことを考えなくてもいいのかもしれない。
私たちは人の流れに沿って歩き出す。
夕暮れの湖上都市は。
昼間とは違う顔を見せ始めていた。
橋には色とりどりの花。
水面には無数の灯り。
飾り付けられたゴンドラが。
ゆっくりと水路を進んでいく。
その光景を見ながら。
私は少しだけ胸を弾ませる。
花火なんて。
いつ以来だろう。
異世界に来てからは。
もちろん初めてだった。




