第十九話 火の坊や
神殿へ向かう途中だった。
「気が進まないなぁ」
隣を歩いていたレンが呟く。
思わず足を止めた。
「え?」
聞き間違いだろうか。
今。
気が進まないと言った?
レンが?
「どうしたの?」
本人は少しだけ不満そうだった。
「行きたくないの?」
「まぁ…」
即答だった。
「なんで?」
レンは少し考える。
それから。
「あのお婆さん苦手なんだよね」
私は首を傾げた。
お婆さん?
姫巫女様って。
そんなに高齢なのだろうか。
そして会ったことあるの?
水の神王だよね…
……なんとなく、聞かないでおこう。
◇◇◇
案内された先は。
湖の中央に建てられた神殿だった。
白い石で作られた建物。
静かな水面にその姿が映っている。
思わず見入ってしまう。
「どうぞ」
使者に促される。
大きな扉が開いた。
私は思わず息を呑んだ。
玉座のような椅子に座っていたのは。
十歳くらいの少女だった。
透き通るような水色の長い髪。
青い瞳。
人形のように整った顔立ち。
どう見ても。
お婆さんではない。
「久しぶりですね」
少女が微笑む。
視線はレンへ向いていた。
「火の坊や」
レンが少しだけ眉をひそめた。
「父王は息災でして?」
「さぁ」
レンはあっさり答える。
「ここ数年会ってないからね」
私は固まった。
会ってないの?
「本人に聞きなよ」
少女が小さく笑った。
「相変わらずですね」
ちょっと待った。
私は勢いよく手を挙げる。
「ちょ、ちょっと待ったーーーーーー!」
二人の視線がこちらへ向く。
「お婆さんって、この少女が!?」
「?」
レンが首を傾げた。
「そうだよ」
「そうだよ!?」
思わず叫ぶ。
どう見ても子供だ。
「それに父王って……」
私は嫌な予感を覚える。
ものすごく嫌な予感だ。
「まさか」
「父上さんって……神王だったり?」
レンは不思議そうな顔をした。
「そうだけど?」
頭が真っ白になった。
「そうだけど!?」
私の叫びが。
神殿中に響き渡った。
少女はくすりと笑う。
「ふふ」
青い瞳が私へ向く。
「星の子は随分と愉快なのですね」
私は固まる。
星の子。
聞き慣れない呼び方だった。
「会えるのを楽しみにしていた甲斐があります」
少女は静かに目を細めた。
「うつろいゆらめく未来」
その声は。
まるで独り言のようだった。
「さぁ」
「貴女は何を求めにいらして?」




