第十一話 伝えたかったこと
時間が経つと。
色々考えてしまう。
市場でのこと。
男たちのこと。
怖かった。
今思い出しても。
少しだけ体が震える。
けれど。
助けてくれた。
レンが。
ピンクちゃんが。
そういえば。
行き倒れていた時も助けてくれたんだ。
あのままだったら。
どうなっていたか分からない。
レンは。
別に人助けが趣味です。
みたいな人じゃない。
ぶっきらぼうだし。
説明も足りないし。
デリカシーもない。
迷子にもなる。
でも。
良いところも。
意外とある。
私はレンを見る。
向かいの椅子に座っていた。
本を読んでいる。
いつも通りだ。
お礼。
ちゃんと言えていない。
市場のことも。
今までのことも。
ずっと。
言えてない。
その時だった。
ふと。
そんな気がした。
あれ。
もしかして。
声。
出るかもしれない。
私はそっと口を開く。
「……あ」
掠れた音だった。
自分でも驚く。
思わず口元を押さえた。
レンが本から顔を上げる。
「?」
私はもう一度口を開く。
緊張した。
出なかったらどうしよう。
そんな不安が頭を過る。
それでも。
言いたかった。
ずっと。
「……あり、がとう」
小さな声だった。
掠れていて。
上手く言えたかも分からない。
それでも。
確かに言えた。
レンが目を丸くする。
それから。
小さく頷いた。
胸の奥が少し熱くなる。
私は笑った。
少しだけ泣きそうな顔で。
「ありがとう」
今度はちゃんと言えた。
レンは少し考える。
それから。
「いいよ」
軽く。
額を弾かれた。
「いたっ」
久しぶりに出た声は。
そんな情けないものだった。
レンは少しだけ笑う。
「声、よかったね」
私は目を瞬かせる。
優しい声だった。
私は額を押さえる。
少し痛い。
でも。
なんだか少しだけ。
心が軽くなった気がした。
◇◇◇
「国境付近ですか?」
ヴァスキが報告書を読み上げる。
ヴェルは顔を上げた。
「黒髪、黒目をした少女」
「そして火を吹く桃色の小鳥」
部屋が静かになる。
火を吹く小鳥など聞いたことがない。
けれど。
「黒髪、黒目……」
小さな呟き。
ヴァスキも頷く。
「偶然かもしれません」
「ですが」
「特徴が一致するのは珍しい」
ヴェルは窓の外を見る。
ヒカリ。
あの少女だろうか。
「追跡を続けてくれ」
静かな声だった。
「少しでも情報が欲しい」
「承知しました」
ヴァスキが頭を下げる。
久しぶりの。
小さな希望だった。




