第十話 市場(後)
「迷ったのかい?」
男は人の良さそうな笑顔を浮かべていた。
私は首を横に振る。
レンを探しているだけだ。
男は笑う。
「はぐれてるなら、一緒に探してやろうか」
私はもう一度首を横に振った。
そのまま歩き出す。
けれど。
男はついてくる。
「珍しい髪だな」
「旅人か?」
答えない。
答えられない。
私は歩く速度を上げた。
男も歩く。
気付けば。
男は一人ではなかった。
前にも。
横にも。
知らない男がいる。
背筋が冷たくなる。
市場の喧騒は遠い。
人通りも少ない。
私は立ち止まった。
逃げなきゃ。
そう思った時だった。
「ねぇ」
聞き慣れた声だった。
男たちが振り返る。
通りの向こう。
レンが立っていた。
私は思わず顔を上げる。
レンは私を見る。
それから男たちを見る。
「その子」
静かな声だった。
「僕の連れなんだけど」
男の一人が鼻で笑う。
「ガキは引っ込んでろ」
そう言って殴りかかった。
レンは避けて。
軽く手を払う。
それだけだった。
男の体が吹き飛ぶ。
地面を転がり。
動かなくなる。
少しだけ残念そうに呟く。
「……つまらないな」
男たちの顔色が変わった。
けれど。
私に一番近かった男は。
私の腕を掴む。
「くそっ!」
強く引かれる。
痛い。
その時だった。
「ぴぃ!!」
桃色の小鳥が飛び立つ。
そして。
ゴォォォォッ!!
炎が走った。
男は悲鳴を上げて手を離す。
私は尻もちをついた。
男たちは青い顔で逃げ出した。
辺りは静まり返る。
私はピンクちゃんを見る。
「ぴぃ♪」
得意そうだった。
鳥が。
火を。
吐いた。
◇◇◇
「大丈夫?」
レンが近付いてくる。
私は勢いよくピンクちゃんを指差した。
それから。
両手を広げる。
火。
というつもりだった。
レンは首を傾げる。
そして。
肩に戻ってきたピンクちゃんを見る。
「……キミ」
「ぴぃ?」
「そんなことできたんだ」
私は固まった。
ピンクちゃんも固まった。
「知らなかった」
レンは感心したように頷く。
「ぴぃ♪」
嬉しそうだった。
違う。
そこじゃない。
突っ込みたいことが多すぎる。
けれど。
やっぱり声は出なかった。




