第八話 距離感
旅というのは大変だ。
まず。
宿場町から宿場町まで。
一日歩いて辿り着くかどうか。
その上。
荷物も重い。
重い物はレンが持ってくれているのに。
旅なんてもっと楽なものだと思っていた。
けれど。
気付いたこともある。
このぶっきらぼうで。
究極のマイペースオブ自由人。
レンという人は。
思ったより優しかった。
疲れたと思えば休憩を入れてくれる。
果物を取ってくれる。
荷物も持ってくれる。
相変わらず自由だし。
説明も足りないし。
たまに鳥任せだけど。
予想よりずっと助かっている。
それに。
声が出せないのも良いのかもしれない。
無理に話さなくていい。
気まずいと思うこともない。
同じ道を歩いている。
それだけだった。
◇◇◇
休憩中。
レンは木にもたれ掛かっている。
ピンクちゃんは近くで羽繕い。
私は地面にしゃがみ込んだ。
枝を拾う。
そして。
土の上に文字を書く。
ヒ。
カ。
リ。
少し歪んでいる。
それでも。
前よりはずっと上手く書けた。
良い感じだ。
私は満足して頷いた。
その時。
頭上から声が降ってきた。
「何してるの?」
顔を上げる。
レンがこちらを覗き込んでいた。
私は土を指差す。
そして。
もう一度文字を書く。
ヒカリ。
レンはしばらくそれを見ていた。
「名前?」
私は勢いよく頷く。
嬉しくなる。
伝わった。
私はレンを指差した。
それから。
枝を持ったまま首を傾げる。
レンは少し考えた。
「僕の?」
こくこく。
レンは少しだけ首を傾げた。
それから。
私の隣にしゃがみ込む。
レンは土の上に文字を書いた。
レ。
ン。
私はしばらく文字を見つめる。
それから。
同じように文字を書く。
レ。
ン。
どや。
うん、なかなかいいじゃないか。
レンは文字と私を見比べた。
そして。
少しだけ口元を緩める。
「……まぁ」
「うまく書けた、かもね」
柔らかな笑顔だった。
私は目を見開く。
そして。
思わずレンを指差した。
「?」
違う。
そうじゃない。
私は慌てて首を振る。
上手く伝わらない。
でも。
なんだか少し嬉しかった。
レンは不思議そうな顔をしている。
たぶん。
何も分かっていない。
それでも。
その日は少しだけ。
旅が楽しかった。




