第五話 小さな一歩
窓の外を眺める。
遠くの山並み。
その向こうに水の神国があるらしい。
ぼんやりと見つめていると。
「何してるの?」
声がした。
驚いて顔を上げる。
窓の外だった。
レンがいた。
私は固まる。
レンは首を傾げた。
「?」
なんでそこにいるの。
思わずそんな顔になる。
けれど。
レンは気にした様子もなかった。
「キミさ、どうするの?」
私は首を傾げる。
「僕はこれから水の主都に行かないといけないから」
「決めてもらわないと」
決める?
何を?
「一緒に来る?」
「残る?」
意味が分からない。
私は瞬きを繰り返した。
「迷子なんでしょ?」
その言葉に少しだけ眉をひそめる。
迷子。
間違ってはいない。
たぶん。
「帰る場所が分からないなら」
「主都くらいまでなら連れて行ってもいいよ」
まるで。
散歩に誘うみたいな口調だった。
迷子……。
うん。
そっか。
私、迷子なんだ。
気付けば少しだけ笑っていた。
レンは不思議そうに首を傾げる。
「?」
会えるかは分からない。
姫巫女様が本当に未来を見られるのかも分からない。
水の神殿が話を聞いてくれる保証もない。
行こう。
何もしなければ何も変わらない。
それに。
ここにいると。
色々思い出してしまうから。
私はレンを見る。
そして。
ぺこりと頭を下げた。
レンは少しだけ目を瞬く。
それから。
「うん」
とだけ言った。
相変わらず反応が薄い。
「じゃあ」
レンは空を見上げる。
「明後日の朝に出発するから」
それだけ言うと。
まるで用事が終わったみたいに立ち上がった。
私はその背中を見送る。
水の神国。
姫巫女様。
帰る方法。
まだ何も分からない。
それでも。
少しだけ前を向けた気がした。




