第四話 行き先
一面の星空だった。
ああ。
夢を見ているんだ。
「やぁ」
声がした。
あの白い少年だった。
私は少しだけ眉をひそめる。
「……どこに消えたの?」
少年はきょとんとした。
「私、一人だったんだけど」
少年は困ったように笑う。
なんだか腹が立つ。
「お家に帰してよ……」
気が付けば。
そんな言葉が零れていた。
少年は少しだけ寂しそうな顔をした。
「ごめんね」
静かな声だった。
「そばにはいるんだけど」
「実体化できるほど、キミの力が安定していないんだ」
意味が分からない。
私は顔をしかめる。
「なんの話?」
少年は少し困ったように笑った。
そして。
「そばにいるよ」
優しい声だった。
「ボクは、いつも」
「キミと共に在るから」
その言葉と同時に。
星空が遠ざかっていく。
私は慌てて手を伸ばした。
「待っ――」
◇◇◇
目が覚めた。
見慣れない天井。
しばらくぼんやりと見つめる。
それから。
私は小さく口を動かした。
『次会ったら』
声は出ない。
それでも。
『もっと文句言ってやる……』
当然。
誰にも聞こえなかった。
◇◇◇
部屋を出る。
階段を下りると。
知らない男性がいた。
赤みの強い茶髪。
大きな体に反して、穏やかな顔をしている。
男性は私を見ると安心したように笑った。
「あぁ」
「貴女がヒカリさんですね」
男性は軽く頭を下げた。
「はじめまして」
「私はユウリといいます」
「レン様のお供をしております」
レン。
――子どもみたいな字だね。
思い出しただけで少し腹が立った。
「声が出ないと聞いています」
私は頷く。
「強い衝撃で、一時的に声が出なくなることがあるんです」
「きっと、戻りますよ」
私は少しだけ肩の力を抜いた。
ふと。
窓の外を見る。
知らない景色だった。
ユウリはそんな私を見ていた。
「ここがどこか気になりますか?」
私は頷く。
「ここは風の神国と水の神国の国境です」
私は自分を指差した。
それから。
首を横に振る。
空を指差す。
上手く伝わらない。
ユウリは少し考えてから口を開いた。
「……元の場所へ帰りたいんですか?」
私は大きく頷いた。
(地球を知ってるかは分からないと思うけど…)
ユウリは静かに息を吐く。
「可能性として、ですが」
私は顔を上げた。
「水の神国には姫巫女様がおられます」
「未来を見ることができると言われている方です」
未来。
私は息を呑む。
「それに水の神国は学問の国です」
「主都には多くの知識が集まっています」
「何か分かるかもしれません」
希望だった。
初めての。
けれど。
ユウリは少しだけ困ったように笑う。
「ただ」
私は続きを待った。
「貴女はヒトです」
「簡単ではないかもしれません」
その言葉に。
私は静かに俯いた。




