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星と呼ばれた少女  作者: さかい
水の神国
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第一話 森の中の少女


冬だった。


とはいえ、この辺りに雪は降らない。


風の神国と水の神国の境界。


国境沿いにある小さな宿場町は、今日ものどかだった。


レンは森の中を歩いていた。


目的は薬草探し。


もっとも、見つかるとは思っていない。


季節が悪い。


冬だ。


薬草が残っている方が珍しい。


それでも森に入ったのは、暇だったからだ。


「ぴぃ」


足元から鳴き声が聞こえる。


レンは視線だけ下げた。


桃色の小さな鳥。


手のひらほどしかない体。


生まれた時から一緒にいるが、いつまで経っても大きくならない不思議な鳥だった。


「遠くに行き過ぎないようにね」


「ぴぃ」


返事になっていない。


いつものことだった。


鳥は楽しそうに草むらを跳ね回っている。


レンはそれを横目に森を進んだ。


本来なら、こんな場所にいる予定ではなかった。


火の神国へ戻る途中だった。


だが従者が毒蛇に噛まれた。


それも滅多に見ない種類の蛇だったらしい。


運が悪かった。


命に別状はなかったが、一月近く寝込むことになった。


最近ようやく歩けるようになったものの、旅を再開できるほどではない。


だから今も宿場町に足止めされている。


別に困ってはいない。


急ぐ理由もなかった。


「ぴっ!」


突然、鳥が鳴いた。


そして勢いよく森の奥へ飛んでいく。


レンは眉をひそめた。


何か見つけたらしい。


追いかける。


数分後。


鳥は一本の大きな木の根元にいた。


その先を見て、レンは足を止める。


人だった。


黒髪の少女。


歳は自分と同じくらいだろうか。


どこにでもいそうな少女だった。


呼吸はある。


しばらく見下ろす。


怪我はない。


血の匂いもしない。


ただ倒れているだけだった。


それなのに。


まるで死んでいるみたいだった。


生きることに疲れ切ったような。


そんな顔をしていた。


レンはしゃがみ込む。


そして声を掛けた。


「ねぇ」


反応はない。


少し考えてから、もう一度口を開く。


「生きてる?」


少女の瞼が微かに動いた。


ゆっくりと目が開く。


黒い瞳。


どこか遠くを見ているような目だった。


少女はレンを見る。


けれど何も言わない。


言えないのかもしれなかった。


数秒。


視線が交わる。


やがてレンは立ち上がった。


「……まぁ、いいか」


鳥が少女の傍から動かない。


ぴぃ。


少女の肩に乗る。


ぴぃ。


動かない。


レンは鳥を見る。


鳥もレンを見る。


しばらく沈黙が続いた。


「……面倒だな」


「ぴぃ」


まるで文句を言われた気分だった。


レンは小さく息を吐く。


そして少女を抱き上げた。


驚くほど軽かった。


少女は抵抗しない。


抵抗する気力すら残っていないようだった。


「いくよ」


誰に向けた言葉だったのか。


自分でも分からなかった。


冬の風が木々を揺らす。


森の中を歩きながら、レンは一度だけ腕の中の少女を見る。


少女は目を閉じていた。


眠っているのか。


意識を失ったのか。


それも分からない。


ただ。


その顔はどこか寂しそうに見えた。


レンは視線を前へ戻す。


そして何事もなかったかのように歩き続けた。


この少女が何者なのか。


なぜこんな場所にいたのか。


レンはまだ知らなかった。

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