第三十一話 神聖樹
少しだけ分かったことがある。
ぽわっ。
危うく光が生まれそうになる。
私は慌てて深呼吸をした。
そして。
心の中で唱える。
脳内召喚。
――また何かやりましたね。
――勝手に行動しないでください。
ぽしゅっ。
光が消えた。
「よし」
思わず拳を握る。
完璧だ。
神力の制御を覚えた。
代償として。
ヴァスキさんの説教が、いつでも脳内再生できるようになったけれど。
「何をしているんですか?」
後ろから声がした。
振り返る。
シュルティさんだった。
「秘密です」
「気になりますね」
「……秘密です」
ヴァスキさんの脳内説教を受けていました。
言えない。
シュルティさんは少しだけ笑った。
◇◇◇
その日。
私は図書館にいた。
神託について調べるためだ。
襲撃。
先王派。
終焉。
あの日から。
どうしても気になっていた。
本をめくる。
けれど。
神託について書かれた本は少ない。
あっても。
解釈ばかりだった。
「難しい……」
思わず机に突っ伏す。
その時だった。
近くの棚から一冊の本が落ちた。
ぱさり。
古びた本だった。
題名を見る。
『神聖樹について』
神聖樹。
聞いたことはある。
けれど。
詳しくは知らない。
私は本を開いた。
しばらく読み進める。
そして。
ある一文で手が止まった。
『神聖樹は星を巡らせる』
星。
思わず目が留まる。
さらに読み進める。
『命は星より生まれ』
『星へ還る』
『神聖樹は命の始まりであり』
『命の終わりである』
静かな図書館。
私は何度もその文章を読み返した。
「星……」
終焉。
星の欠片。
神聖樹。
何かが繋がっている気がする。
けれど。
意味は分からなかった。
◇◇◇
「神託の調査ですか?」
いつの間にか。
シュルティさんが隣に立っていた。
私は頷く。
「神の世が終わるって……」
言葉を探す。
「そんなの、だめです」
シュルティさんが少しだけ目を瞬いた。
私は首を傾げる。
だって。
「シュルティさんもいますし」
「図書館のみなさんもいます」
「フワモちゃんたちもいます」
言いながら。
たくさんの顔が浮かぶ。
「みんな、みんな大切な人たちです」
「だから」
「そんなの、だめです」
シュルティさんはしばらく何も言わなかった。
やがて。
小さく息を吐く。
「ヒカリさんは」
そこで言葉を切る。
そして。
少しだけ笑った。
「本当に不思議な人ですね」
「そうですか?」
「ええ」
優しい声だった。
私はよく分からないまま首を傾げる。
窓の外では。
今日も風が吹いていた。




