第二十七話 お味はいかが?
保護区へ足を運んだのは翌日のことだった。
「フワモちゃん!」
呼ぶと。
草むらの向こうから白い塊が飛び出してくる。
「ふわ!」
勢いよく胸へ飛び込んできた。
思わず抱きしめる。
温かい。
柔らかい。
元気だ。
「良かったぁ……」
思わず力が抜けた。
先日のことを思い出す。
ぐったりした姿。
返事のない声。
本当に心配したのだ。
「ふわ♪」
当の本人はどこ吹く風である。
◇◇◇
保護区には今日もフワモたちが集まっていた。
ぽよぽよ。
ふよふよ。
自由気ままに過ごしている。
「みんな、助けてくれてありがとう……」
思わず呟く。
その時だった。
ふと。
昨夜のことを思い出した。
風玉。
夜空。
そして。
『……ノル』
ぽつりと零れた言葉。
『どちらにしても、内緒にしていてくれ』
少しだけ悪戯っぽく笑った顔。
自然と口元が緩む。
その瞬間だった。
ふわっ。
指先から淡い光が零れた。
「え?」
小さな光の玉。
星屑みたいにきらきらと輝いている。
見たことのない光だった。
「なにこれ……」
不思議そうに眺めていると。
ぽよん。
一匹の小さなフワモが飛び上がる。
そして。
ぱくっ。
「……ん?」
光の玉が消えた。
フワモは満足そうに揺れている。
「ふわ〜♪」
数秒。
思考が止まった。
「え!」
フワモを見る。
「今、何食べた?」
「ふわ?」
首を傾げる。
「だめだめだめだめ!」
慌てて抱き上げる。
「何食べたの!?」
「ぺっ!」
「ぺっして!」
「ふわ?」
全く伝わらない。
◇◇◇
「……神力、ですね……」
聞き慣れた声がした。
振り返る。
「シュルティさん!」
そこにはシュルティが立っていた。
そして。
ヒカリの腕の中で揺れるフワモを見る。
その視線が少しだけ細められた。
「この子たちは神力を好みます」
「神力?」
「今の光です」
ヒカリは目を瞬いた。
「神力だったんですか?」
「おそらく……」
そう言ってフワモを見る。
「お腹、壊さないといいけど……」
当のフワモは。
「ふわ♪」
とても満足そうだった。
◇◇◇
「最近、何か変わったことはありませんか?」
不意にそう聞かれた。
「変わったこと?」
考える。
けれど。
特に思い当たらない。
「うーん……」
首を傾げる。
シュルティはそんなヒカリを見つめ。
やがて小さく微笑んだ。
「そうですか」
何か含みのある言い方だった。
その瞳は。
まるで何かを確かめるようだった。
「えいっ!やぁ!とぅ!」
「……出ない」
ますます分からない。
いつの間にか。
たくさんのフワモたちが集まっていた。
皆。
期待した目でこちらを見ている。
「ふわ!」
「ふわ〜!」
「ふわっ!」
「……まさか」
ヒカリは嫌な予感を覚えた。
その時だった。
ふわっ。
一斉に飛びつくフワモたち。
「わっ!?」
「だめだってば! 出し方分からないんだって!」
保護区に慌てた声が響く。
その様子を見ながら。
シュルティは小さく笑った。
風が吹く。
穏やかな午後だった。




