第二十五話 星の欠片 後
轟ッ――!!
黒い嵐が降り立った。
暴風。
巻き上がる土砂。
神官たちが思わず目を覆う。
そして。
嵐の中心。
そこに立っていたのは一人の神族だった。
黒髪。
鋭い金の瞳。
ヴァスキ。
静かな怒気を纏いながら。
神官たちを見渡す。
「……神官ともあろうものが」
低い声。
「この日を血で穢そうとするとは」
空気が凍った。
年配の神官が歯噛みする。
「ヴァスキ……!」
「貴様は神王の警護に行っているはずでは!」
ヴァスキは答えない。
ただ。
冷ややかな目を向ける。
その視線だけで。
神官たちは息を呑んだ。
「くそっ!」
一人が叫ぶ。
「その厄災を消せ!」
神官たちが一斉に動く。
だが。
次の瞬間だった。
風が鳴る。
ただそれだけ。
気付けば。
一人。
また一人。
神官たちが地面に沈んでいた。
「がっ……!」
「な……っ」
「ぐあっ!」
五人。
六人。
一瞬だった。
まさに。
目にも止まらぬ速さ。
残った神官たちの顔から血の気が引く。
ヴァスキはゆっくりと振り返った。
その表情はいつもと違う。
怒りを露わにしていた。
◇◇◇
「神託などという不確かなものを信じて」
ヴァスキは静かに言う。
「何が起きたかお忘れですか?」
年配の神官が睨み付ける。
「黙れ!」
「星の欠片が現れたのだぞ!」
「終焉は近い!」
「我らは神の世を守る!」
叫ぶ声。
けれど。
ヴァスキはため息を吐いた。
「……あぁ」
心底呆れたように。
「貴方たちは先王派でしたか」
神官たちの表情が強張る。
図星だったらしい。
「先王様は正しかった!」
「力なき者は滅亡の足音!」
「神を畏れぬ者は災厄だ!」
ヴァスキは目を細めた。
「神託は神託です」
「ですが」
一歩前へ出る。
「それで人を裁いて良い理由にはなりません」
誰も反論できなかった。
◇◇◇
「まったく」
ヴァスキは周囲を見渡す。
倒れ伏す神官たち。
怯える神官たち。
そして。
ヒカリを守るように集まるフワモたち。
「今日でなければこの場で星に還してさしあげたのに」
ヴァスキは冷たく言い放つ。
「まったく残念で仕方ありませんよ」
年配の神官が唇を噛んだ。
完全に勝負は決していた。
◇◇◇
ヴァスキはヒカリへ視線を向ける。
その瞬間。
張り詰めていた空気が少しだけ和らいだ。
「申し訳ありません」
ヒカリは目を瞬く。
「不審な動きは把握していました」
「ですが」
ヴァスキは僅かに眉を下げた。
「本祭を狙うとは思っていませんでした」
「こちらの不手際です」
そう言って片膝をつく。
視線を合わせるように。
「怪我はありませんか?」
ヒカリは答えられなかった。
腕の中。
ぐったりとしたフワモを見る。
「ヴァスキさん……」
声が震える。
「フワモちゃんが……」
涙が零れた。
ヴァスキは小さなフワモを見る。
そして。
ほんの少しだけ困ったように笑った。
「大丈夫ですよ」
その言葉に。
ヒカリは顔を上げた。
風が吹く。
すると。
腕の中のフワモが小さく震えた。
「……ふわ」
「え?」
ヒカリが固まる。
「ふわ」
もう一度。
弱々しい声。
生きてる。
ヒカリの目から涙が溢れた。
その様子を見て。
ヴァスキは静かに息を吐いた。
ひとまず。
間に合ったらしい。




