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星と呼ばれた少女  作者: さかい
風の神国
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22/53

第二十二話 前祭


前祭当日。


神殿の外は朝から賑やかだった。


窓を開ければ、風に乗って人々の声が聞こえてくる。


豊穣祭。


風の神国で四年に一度開かれる一大イベント。


その初日だ。


「今日かぁ……」


自然と頬が緩む。


少し前まで祭りなんて他人事だったのに。


気が付けば、自分も楽しみにしていた。


部屋を出る。


待ち合わせ場所には既にヴェルがいた。


「お待たせしました!」


そう声を掛けて。


ヒカリは固まった。


「……なんですか? それ」


ヴェルの顔には仮面があった。


白を基調としたそれは、獣の顔を模しているらしい。


らしいのだが。


何の獣なのか分からない。


「祭りの仮面だ」


「祭りの、仮面?」


「数百年前に存在した動物を模したものだ」


「……へぇ」


少しだけ見上げる。


「何の動物ですか?」


「分からん」


「分からないんですか!?」


思わず声が大きくなった。


「記録が失われている」


ヴェルは平然と言う。


「だが、祭りの伝統として残った」


なるほど……


よく分からない。


「似合ってますよ」


とりあえずそう言ってみる。


すると。


ほんの少しだけ。


ヴェルの口元が緩んだ気がした。


◇◇◇


街へ出る。


そこはもう別世界だった。


色鮮やかな布飾り。


風車。


屋台。


広場では楽師たちが演奏をしている。


そして。


仮面。


子供も。


大人も。


老人も。


仮面を被る率は中々高い。


「すごい……」


思わず見回す。


「前祭は祖先へ感謝を捧げる意味もある」


ヴェルが説明する。


「仮面はその名残だ」


「へぇー」


理解したような。


していないような。


◇◇◇


しばらく歩く。


すると。


見覚えのある看板が目に入った。


『風玉焼き』


ヒカリは立ち止まる。


三度見した。


「……ありますね」


「ああ」


本当に作ったらしい。


しかも。


かなりの行列だった。


「風玉焼き二つ!」


「こっちにも!」


「次焼けるまで少々お待ちくださーい!」


大盛況である。


「……ヴァスキさんが怒りませんように」


呆然と呟く。


その時だった。


「お嬢ちゃん!」


聞き覚えのある声。


振り返る。


「あっ!」


そこには例の日傘職人が立っていた。


◇◇◇


「売れてますね〜」


「誰のおかげだと思ってる!」


おじさんが胸を張る。


「わ、私は無関係です!」


「お嬢ちゃん以外に誰がいる!」


あぁ、小言が聞こえてくるようだ。


「本当に助かったよ」


おじさんは笑う。


「祭り前だからな。職人連中も寝る間を惜しんで作ってる」


「そんなに?」


「そんなにだ」


凄いことになっているらしい。


その時だった。


おじさんの視線がヴェルへ向く。


仮面を被っている。


けれど。


すぐに分かったらしい。


「しかし」


おじさんが首を傾げる。


「お嬢ちゃんは神族じゃねぇんだろ?」


「違いますよ」


「だよなぁ」


何故だろう。


妙に納得された。


「分かるんですか?」


「まぁな」


おじさんは頷く。


そして。


「そっちの美人な兄ちゃんは神族様だろうが」


ヴェルを見る。


「普通は神族様とヒトがあんな風に歩かねぇ」


ヒカリは目を瞬いた。


「そうなんですか?」


今度はおじさんが目を丸くした。


「知らねぇのか?」


「知らないです…」


おじさんは頭を掻いた。


「この国は特にな」


「神族様は神族様だ」


「ヒトはヒト」


「もちろん悪い人とかそういう話じゃねぇ」


「けどな」


「普通はもっと遠い」


遠い。


ヒカリは隣を見る。


ヴェルは串焼きを食べていた。


「……」


「……」


全然遠くない。


むしろ近い。


「まぁ」


おじさんは笑った。


「お嬢ちゃんは変わってるし」


「そっちの兄ちゃんも変わってる」


「ちょうどいいんじゃねぇか?」


「ん、私が変わってる?」


「がはは」


解せぬ。


◇◇◇


その後も少しだけ街を歩いた。


どこも人で溢れていて。


みんな楽しそうだった。


「豊穣祭って人気なんですね」


「四年に一度だからな」


ヴェルが答える。


「楽しみにしている者も多い」


「そうなんですね……」


四年。


子供なら大きく成長する。


大人だって。


次も必ず参加できるとは限らない。


そう思うと。


祭りを楽しみにする気持ちも少し分かる気がした。


風が吹く。


飾り付けられた風車が一斉に回った。


「綺麗……」


思わず呟く。


隣でヴェルが小さく目を細めた。


まだ賑やかな街。


笑い声。


音楽。


そして風。


「楽しかったですね」


「そうだな」


短い返事。


けれど。


どこか柔らかかった。


◇◇◇


もう、秋なのか。


窓の向こう。


長月が静かに浮かんでいる。


この世界に来てから、どれくらい経ったのだろう。


家族や友達を思うと寂しくなることもある。


けれど。


気が付けば、今の生活にも少しずつ慣れ始めていた。


美しい王様のことを


私はもう躊躇いなく、ヴェル様と呼べるようになっている。


最初は近寄り難い人だと思っていた。


けれど。


最近は少しだけ分かるようになった。


甘いものが好きで。


驚くほどフットワークが軽くて。


仕事はびっくりするほど早い。


そして。


優しい人だ。


長月は静かに夜空を照らしていた。

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