第二十一話 風玉焼き
「ヒカリさん、少しお手伝いをお願いできますか?」
朝食後。
シュルティに声を掛けられた。
「お手伝いですか?」
「ええ。神学校の子供たちが豊穣祭の準備をしているのですが、人手が足りないようでして」
「行きます!」
即答だった。
昨日聞いた不思議な会話が少しだけ頭をよぎる。
けれど。
考えても分からないのでやめた。
◇◇◇
神学校へ到着すると。
「神官さまっ!」
「シュルティおねぇさん!」
子供たちが一斉に駆け寄ってきた。
「おはようございます」
「今日は風玉の準備だよ!」
「風玉?」
ヒカリが首を傾げる。
すると。
「後祭で飛ばすやつ!」
「願い事を書くんだ!」
「空に飛んでいくの!」
子供たちが口々に説明してくれた。
「へぇ」
どうやら豊穣祭の名物らしい。
机の上には手のひらサイズの色とりどりの紙が並んでいた。
折紙みたいだけど、玉?
飛ばすとは?
丸めて投げろと?
全くわからない。
だが、
子供たちはそれを丁寧に仕分けている。
「大変だね〜、みんな偉いね〜」
「うん!」
「でも楽しい!」
元気な返事が返ってきた。
それからしばらく。
ヒカリも一緒に作業を手伝った。
◇◇◇
まだ日が高いうちに
神学校へ面識のある神官がやって来た。
別の相談がしたいとのこと。
嫌な予感がした。
もれなく予感とは当たるものだと実感する。
目の前には料理の材料が山積みだ。
「屋台で提供する料理に行き詰まっています……」
祭り担当と思われる神官が真面目な顔で言う。
「ぜひ、意見をお願いします」
「屋台料理。」
「重要な仕事です」
神官は真顔だった。
◇◇◇
串焼き。
甘味。
伝統料理。
うーん……パッとしない。
「どうでしょうか」
「人も多いし、手軽なものが良いですよね……」
神官たちは一言一句メモを取る。
何だろう。
少し怖い。
そんな中。
ヒカリの目が一つの菓子で止まった。
「これ」
丸い焼き菓子だった。
「……ベビーカステラとかいいかも」
「べびーかすてら?」
神官たちが顔を上げる。
「問題は焼き型だよね……」
沈黙。
ヒカリは紙を引き寄せた。
カキカキ。
丸。
丸。
丸。
「こういう銅製か鉄製の型に生地を流して焼くんです」
神官たちは絵を覗き込む。
「なるほど……」
「形が可愛ければベストですけど」
「丸いだけでも可愛いですよー」
真剣にメモを取る音が響いた。
「名称は?」
「え?」
「その菓子の名称です」
ヒカリは少し考えた。
正式名はベビーカステラだが、なんだか親しまれなそうな気もする。
「祭りに合わせて、風玉焼きとか良さそうですよねー」
再び沈黙。
「風玉焼き……」
「風玉焼きか……」
神官たちが頷き合う。
「あの」
「はい」
「別なもの考えますか?」
「いえ、風玉焼きで検討します」
真顔だった。
◇◇◇
その日の夜。
「作りました」
「早くないですか!?」
職人が焼き型の試作品を持ってきた。
仕事が早すぎる。
そして出来上がったのは。
ころころとした丸い焼き菓子だった。
蜂蜜入りにしてみた。
一口。
「美味しい!」
二口。
「可愛い!」
三口。
「美味しい!」
神官たちは満足そうに頷いた。
「手元の材料だとチーズや紅茶とか入れても美味しいかと」
「採用ですね」
決まったらしい。
◇◇◇
祭りの準備は順調に進んでいた。
神学校では子供たちが風玉の準備をしている。
職人たちは屋台を作っている。
神官たちは忙しそうに走り回っている。
そして。
風玉焼きまで生まれた。
「豊穣祭、楽しみだなぁ」
自然と笑みが零れる。
祭りはもうすぐだった。




