第二十話 祭りの足音
シュルティさんは陽だまりのような美女だ。
ヴァスキさんは私より頭一つ分以上高い長身。
黒髪にエキゾチックな顔立ちのイケメンではある。
そう。
見た目だけなら。
問題はその後だ。
笑顔なのに。
瞳が。
瞳が全然笑っていないのである。
あぁ、私のシュルティさんが……
「ヴェル様、豊穣祭の準備もありますし……」
シュルティが穏やかに言う。
「一部の神官たちの件でご相談が」
ヴェルが頷く。
どうやら仕事の話らしい。
「お仕事ですか?」
「ええ」
シュルティが微笑む。
「私、庭園でも散歩してますね」
そう言って部屋を後にした。
◇◇◇
城の庭園は今日も綺麗だった。
色とりどりの花。
心地良い風。
遠くには浮遊都市の街並み。
祭りが近いからだろうか。
いつもより人々の声が弾んで聞こえる。
「豊穣祭かぁ」
四年に一度の大きなお祭り。
前祭、本祭、後祭の三日間に渡って行われるらしい。
楽しそうだ。
B級グルメを堪能したい。
そんなことを考えながら歩いていると。
植え込みの影で何かが動いた。
もぞっ。
「ん?」
覗き込む。
「ふわぁ」
小フワモだった。
「わぁ」
思わず抱き上げる。
「どうしたの?」
「ふわぁ」
「迷子になっちゃった?」
ふわふわの体は温かい。
どうやら保護区域から出てきてしまったらしい。
「よしよし」
「送っていこうね」
ヒカリは小フワモを抱えたまま歩き出した。
◇◇◇
その途中だった。
人の声が聞こえた。
「――あれは処分することに決まったようだ」
足が止まる。
「我らの世界のためだ」
「不確定要素はない方がいい」
聞き慣れない声。
神官だろうか。
何の話をしているのだろう。
少しだけ。
怖かった。
ヒカリはそっと草陰へ身を寄せる。
見えるのは神官服だけ。
顔までは見えない。
「……?」
首を傾げる。
けれど。
その時には。
人影は曲がり角の向こうへ消えていた。
「何だったんだろう」
腕の中で。
「ふわぁ」
小フワモが鳴く。
「そうだね」
ヒカリは苦笑した。
「まずは君を返さないと」
結局。
それ以上考えるのはやめた。
◇◇◇
無事に小フワモを保護区域へ送り届ける。
帰り道。
街の方を見ると。
祭りの飾り付けが始まっていた。
風に揺れる旗。
広場を行き交う人々。
どこか浮き立った空気。
自然と笑みがこぼれる。
先ほどの会話は少しだけ気になったけれど。
きっと気のせいだろう。
そう思いながら。
ヒカリは祭りの準備が進む街を眺めていた。




