第十七話 アストリッド
日傘を手に入れたヒカリはご機嫌だった。
その時だった。
「!」
ヒカリの目が輝く。
ちょうど良い高さの階段を見つけた。
「ヴェル様」
「お願いがありまして」
ヴェルは、ほんの少し嫌そうな表情をした。
「ここからジャンプするので」
ヒカリは階段を指差した。
「神力でゆっくりおろしてもらえたりなんて、いいですか?」
「……」
ヴェルは小さく頷いた。
「やった!」
ヒカリは階段を駆け上がる。
日傘を開く。
「ていっ」
ふわり。
身体が浮いた。
風がレースを揺らす。
「おおおお!」
ひらり。
ゆっくりと着地する。
「もう一回!」
「駄目だ」
即答だった。
「人が見ている」
周囲を見る。
確かに見られていた。
「……一回で我慢します」
こくん。
◇◇◇
しばらく歩くと。
「少し寄る」
不意にヴェルが言った。
視線の先には大きな建物。
「あ、お仕事ですか?」
ヴェルは頷く。
「確認することがある」
仕事らしい。
ヒカリも素直について行くことにした。
◇◇◇
建物の中には、多くの絵や記録が並んでいた。
歴代の王。
名を残した英雄。
風の神国の歴史。
「へぇ……」
知らない国の歴史なのに。
見ているだけで面白い。
「少し待っていてくれ」
ヴェルは奥へ向かった。
「はーい」
ヒカリは展示を眺めながら歩き始める。
立派な王様。
厳しそうな将軍。
優しそうなお妃様。
その中で。
ふと足が止まった。
大きな肖像画。
そこに描かれていたのは、一人の女性だった。
思わず見惚れるほどに綺麗な人。
整った顔立ち。
金色の髪。
王族らしい豪奢な衣装。
けれど。
「……なんか怒ってる?」
無表情だった。
よく見ると少し不機嫌そうにも見える。
ヒカリは首を傾げた。
「綺麗な人なのになぁ」
視線を下げる。
絵の下にはプレートがあった。
『アストリッド』
「アストリッド?」
ヒカリは小さく呟く。
「名前かな」
もう一度肖像画を見る。
やっぱり綺麗だ。
「……あれ?」
似てる人を知ってるかも。
誰だっただろう。
しばらく考えて。
「あ」
「シュルティさんに少し似てるんだ」
雰囲気だろうか。
ふと。
誰かの視線を感じる。
振り返る。
少し離れた場所。
ヴェルが立っていた。
こちらを見ていない。
アストリッドの肖像画を見ていた。
表情も変わらない。
それなのに。
いつもと違うことだけは分かった。
アストリッドの肖像画を見つめるヴェルから。
目が離せなかった。




