第十五話 現地調査?
「ここも」
ヒカリは立ち止まった。
焼き菓子店。
数軒先にも。
「ここも」
さらに歩く。
「あ、ここも」
また焼き菓子店だった。
なんなら。
「そっちも!?」
通りの向こうにも見える。
ヒカリは遠い目をした。
数日前まで存在しなかったという。
どうしてこうなった。
◇◇◇
数時間前。
「焼き菓子専門店が増えております」
ヴァスキの報告に、ヒカリは首を傾げた。
「はぁ、そうなんですか?」
「現在七店舗です」
「なな!?」
思わず声が裏返った。
さらに。
「プリンを扱う店も三店舗」
「なんと仕事の早い……!?」
数日前まで存在しなかったはずである。
風の神国、行動力が高すぎる。
ヴァスキは柔らかく微笑んだ。
「ヒカリさん」
「はい?」
「一つお願いがあるのですが」
なんだろう。
首を傾げる。
「……私に、ですか?」
「はい」
「あなたが何気なく口にしたものが」
「数日後には店になります」
「数週間後には流行になります」
「数ヶ月後には文化になります」
「気軽に知識を提供するのはやめてくださいね」
ヒカリは納得いかなかった。
「私そんな大層なことしてませんよ?」
ヴァスキは微笑んだまま答える。
「やめてくださいね」
解せぬ。
そこでヴェルが口を開いた。
「行くか」
「え?」
「現地調査だ」
ヒカリはヴァスキを見る。
ヴァスキは目を逸らした。
……食べたいだけだよね……
◇◇◇
そして現在。
風の神国の街。
石畳の道。
立ち並ぶ店々。
行き交う人々。
どこからか漂う甘い香り。
「本当に増えてる……」
ヒカリは遠い目をした。
現地調査が必要だった理由を、少しだけ理解した気がした。
「お、ヴ、ヴェル様」
隣を歩く青年へ声を掛ける。
「どうした」
まだ少し呼び慣れない。
でも。
街中なので王様禁止令が出ているので仕方がない。
「髪色だけじゃ、バレてません?」
視線が集まっている気がする。
かなり。
「それはない」
即答だった。
問題あると思う。
「いや、絶対気付かれてますよね?」
「声を掛けられていない」
少し誇らしげ。
納得はできなかった。
できなかったが。
「……あ」
気になるものを見つける。
焼き菓子店。
しかも行列付き。
「人気ですね」
「そうだな」
ヴェルは迷うことなく列へ向かった。
慣れている。
こやつ、頻繁に街に行ってるな?
しばらく待ち。
二人は焼き菓子を受け取った。
ヒカリも一口。
「あ、美味しい」
素直な感想だった。
少し甘めだが悪くない。
すると。
隣で食べていたヴェルが小さく眉を寄せる。
「甘すぎるな」
厳しい。
さらにもう一口。
「焼き時間も長い」
厳しい。
「生地が少し重い」
厳しい。
ヒカリは徐々に真顔になる。
「的確ですね……」
ヴェルは首を傾げた。
「……そうなのか?」
ヒカリは妙に納得した。
お菓子を食べているヴェル様は、動物の話をしていた時と同じ顔だった。
好きなものの話をしている顔だ。
「一番好きなお菓子は何ですか?」
ヴェルは少し考える。
真面目に。
そして。
「難しいな」
「そんなにですか」
「その日の気分による」
うん、重症だった。




