第十四話 もふもふ天国
お菓子騒動から数日後。
神殿の日常は落ち着きを取り戻していた。
……たぶん。
食堂の方から聞こえるような気もする騒ぎは、聞かなかったことにする。
私は知らない。
知らない。
◇◇◇
その日。
庭園を散策していた私は、見慣れない小道を見つけた。
今まで気付かなかった道だ。
少しくらい寄り道してもいいだろう。
そう思ったのが運の尽きだった。
小道の先に広がっていたのは――
もふもふ。
もふもふ。
もふもふ。
羽の生えたアルパカみたいな生き物。
丸くて転がる謎の生き物。(白いSUUMO?)
ツノのあるうさぎみたいな生き物。
「天国だ……」
思わず呟いた。
◇◇◇
翌日も来た。
その次の日も来た。
さらにその次の日も来た。
膝には小フワモ。
隣にはツノウサ。
背中にはモフパカ。
幸せだった。
「私、人気者なのでは?」
差し出したおやつへ一斉に集まるもふもふ達を見ながら、私は満足そうに頷いた。
◇◇◇
一方その頃。
執務室。
「ヒカリ殿が妙な行動をしているとの報告がありました」
ヴァスキが言った。
ヴェルは書類から顔を上げる。
「内容は」
「北区画へ定期的に出入りしています」
「北区画に?」
「動物に埋まっております」
沈黙。
「……そうか」
「不審ではありますが、害はないでしょう」
「……そうだな」
「ただ」
「ただ?」
「理解しかねます。何かの儀式的意味合いでも隠れてるのでしょうか」
ヴェルは何も言わなかった。
そして、長い付き合いになる側近に残念な視線を向ける。
◇◇◇
その日の午後。
念のため様子を見に来たヴェルは、そこで足を止めた。
大フワモにもたれかかるヒカリ。
膝には小フワモ。
隣にはツノウサ。
頭には小鳥。
完全にもふもふに埋まっていた。
「え!? 王様?」
ヒカリが飛び起きる。
その瞬間。
動物達が一斉に姿勢を正した。
ぴしっ。
道を開き、頭を下げる。
「え?」
ヒカリが目を丸くする。
「なんで!?」
「なぜかこの国の動物達はこうなる」
ヴェルは淡々と答えた。
どう見ても崇拝だった。
「……えと、もふります?」
思わずヒカリが聞いた。
「もふ?」
「だって、こんなにかわいいですし」
大フワモを撫でる。
気持ち良さそうに目を細める。
「王様が近付くと、みんな緊張しちゃうんですよね?」
「……そうだな」
少しだけ間が空く。
「好きなんですよね?」
「……そうだな」
「でも逃げられる」
「逃げられるんですか!?」
今度はヒカリが驚く番だった。
「近付けば固まる」
「撫でようとすると逃げる」
「抱こうとすると震える」
「……」
少しだけ気の毒だった。
この人、結構好きなんだな。
動物。
その時だった。
膝の上の小フワモが、ぽてりと地面へ降りた。
ころころ。
ころころ。
ゆっくり転がっていく。
そして。
ヴェルの足元で止まった。
「……」
「……」
逃げない。
震えない。
ただ、ぺたりと足元へ座る。
ヴェルが固まった。
「王様?」
反応がない。
「今、嬉しかったですよね」
「気のせいだ」
即答だった。
絶対違う。
私はもふもふ天国を見つけた。
そして。
王様が思った以上に動物好きだという秘密も知ったのだった。




