第十三話 続・お菓子革命
朝、目を覚ます。
この国へ来てから何度も見る夢。
夢の内容は覚えていない。
誰と話していたのかも。
何を話していたのかも。
それなのに。
同じ夢だと分かる。
そして目が覚めるたびに思う。
安心する、と。
顔も名前も思い出せない。
けれど。
「キミが楽しいことが嬉しいんだ」
そんな言葉だけが胸に残っている。
不思議な夢だ。
会いたいな。
そんなことを考えながら窓の外を見る。
浮遊大陸。
青い空。
風の神国。
ここでの生活にも慣れてきた。
それでも。
家族や友達が恋しくなる。
特に。
元気がない時に、甘いものを作ってくれた兄のことを。
「……うん、プリン食べたい」
しんみり終了である。
私は勢いよくベッドから飛び起きた。
そう。
今の私にはやるべきことがある。
プリンだ。
冷たくて。
つるんと滑らかで。
甘い。
王道のお菓子。
異世界へ来てからずっと焼き菓子ばかりだった。
急に食べたくなったのだから仕方ない。
目指すは元気がない時に兄がよく作ってくれた滑らかプリン。
私は意気揚々と厨房へ向かった。
料理長は私の姿を見るなり眉をひそめる。
「次は焼かないお菓子です!」
「焼かない?」
料理長の眉がさらに寄る。
「はい」
「菓子なのに?」
「菓子なのにです」
さらに困惑した顔になった。
けれど今さらである。
焼き菓子の時も最初は似たような反応だった。
私は材料を並べていく。
卵。
牛乳。
砂糖。
焼き菓子研究のおかげで、代用できる材料は大体把握している。
試行錯誤することもなく。
今回はあっさり完成した。
「できました」
器の中で揺れるそれを見て、料理長が固まる。
ぷるん。
ぷるん。
なんて誘惑的な……
「失敗か?」
「成功です」
「成功……」
「成功です」
料理長は納得していない顔だった。
プリンって簡単に作れるのに、存在しないものなんだなぁ……
このカラメルがまたたまらない。
いつかバニラビーンズを見つけたい。
「食べてください」
料理長は恐る恐るスプーンを入れた。
そして一口。
沈黙。
反応がない。
「り、料理長……?」
返事はない。
厳つい顔が固まっている。
嫌な汗が流れた。
もしかして失敗した?
異世界食材の影響?
砂糖の量?
温度?
頭の中で反省会が始まる。
その時だった。
料理長の目から涙がこぼれた。
「りょ、料理長!?」
思わず立ち上がる。
「泣くほど苦手でしたか!?」
「違う」
即答だった。
料理長はもう一口プリンを口へ運ぶ。
「こんな菓子は……初めてだ」
どうやら成功だったらしい。
その後、試食した料理人たちも次々と固まった。
また泣く人がいた。
大袈裟ではなかろうか。
プリンである。
そんなに驚くようなものではない。
たぶん。
きっと。
おそらく。
◇◇◇
翌日。
食堂の方から叫び声が聞こえた。
「揺れる菓子はどこだーーー!」
「私のプリンを返せーーー!」
「厨房へ急げーーー!」
聞き覚えのある流れだった。
私はそっと顔を覆う。
「……やらかした」
どうやら風の神国のお菓子革命は、まだ終わっていなかったらしい。




