第十二話 女の子って良いわね
「男所帯じゃ大変だったでしょう?」
ナナシさんはにっこりと笑って、私の手を取った。
「かわい子ちゃん、お姉さんと一緒に来なさいな」
「え? あ、はい!」
有無を言わせぬ勢いに、そのまま連れて行かれる。
「ヒカリ」
ヴェル様が少しだけ心配そうに私を見る。
「大丈夫よ。借りるだけ」
ナナシさんが微笑むと、ヴェル様も静かに頷いた。
◇
「わぁ……」
案内された先は、大きなお風呂だった。
地面からは、ふわりと温かな湯気が立ちのぼっている。
石造りの広々とした湯船が、部屋の中央にどんと構えていた。
「さぁ、入りましょう」
そう言って服を脱ぎ始めたナナシさんを見て、私は思わず固まる。
……すごい。
地の神王の奥さん、ナナシさんは、お顔だけじゃない。
全身が、まるで芸術品みたいだった。
全体的に引き締まっているのに、出るところはしっかり出ている。
この世に峰不二子がいるとしたら、きっとこんな感じなんだろうな、なんて意味の分からないことまで頭をよぎる。
「どうしたの?」
「な、何でもありません!」
慌てて服を脱いで、お風呂へ入る。
「ふふっ」
ナナシさんは楽しそうに笑った。
湯船に浸かると、不思議なくらい緊張がほどけていく。
じんわりと全身が温まり、さっきまでの旅の疲れが一気に溶けていくようだった。
「旅はどう?」
その問いに答えると、ナナシさんは相槌を打ちながら、ゆっくりと話を聞いてくれる。
気付けば私は、風の神国のことも、水の神国のことも、火の神国のことも――。
ぽつり、ぽつりと話していた。
「ふふっ。ヒカリは、話が上手ね」
「え?」
ナナシさんは優しく笑う。
「貴方の話、好きよ。たくさんのこと、乗り越えてきたのね」
不思議な人。
初めて会ったばかりなのに、色んなことを話してしまう。
◇
「さて、と」
お風呂を出た途端、ナナシさんが手をぱんっと叩いた。
「せっかくだし、お姉さんのおもちゃになってもらおうかしら」
「へ?」
そこからは、まさに着せ替え人形だった。
「これも似合うわ」
「こっちも可愛い」
「わわっ」
次から次へと服を合わせられる。
髪も丁寧に梳かれて整えられ、頬にはほんのり色が乗せられていく。
「ヒカリ、顔を上げなさい」
「は、はい」
「せっかくの可愛いお顔なんだから、ちゃんと上げてないともったいないわ」
「な、何だか恥ずかしくて……」
恐る恐る鏡に映る自分を見る。
「お化粧なんて、あまり馴染みなくて……自分じゃないみたいです」
「ふふ」
ナナシさんは鏡越しに微笑んだ。
「女の子って良いわねぇ」
「え?」
「男の子も可愛いんだけどね」
くすっと笑う。
「四人全員男の子ってなると、女の子も欲しくなっちゃうわぁ」
「……ん?」
「なぁに?」
「よ、四人もお子さんいるんですか?」
「そうよ」
あっさり頷くナナシさん。
私は思わず固まった。
――一体、おいくつなんだろう。
二十代前半にしか見えないのに。




