第十一話 筋肉と美女
目の前には、筋骨隆々の大男。
袖のない上着――というより、がっつり腕が出たタンクトップ姿――からは鍛え上げられた腕が惜しげもなく覗き、浅黒い肌に短く切り揃えられた焦げ茶色の髪がよく似合っている。
しかも。
片手には、どう見ても武器ではなく――特大サイズの鍬。
……えっと。
第一印象を一言で言うなら。
いかつい。
とにかく、いかつい。
「ようこそ。遠かっただろう?」
大男は豪快に笑う。
――この人が、地の神王?
「えーと……こちらのマッチョさんが、地の神王様であられますですか……?」
「言葉が変ですよ。」
ヴァスキさんがすかさず小声で突っ込む。
「す、素敵な筋肉のお方、とお呼びした方が良かったですか?」
「はっはっはっ!」
地の神王は腹を抱えて笑った。
「面白い嬢ちゃんだ!」
そう言うなり、カグツさんの手をがしっと握る。
「相変わらず元気そうだな!」
「君には負けるよ。」
「今朝採れた野菜があるんだ! 一緒に食べよう!」
「それは楽しみだねぇ。」
あまりにも気さくなやり取りに、私は思わず目を瞬かせる。
……それにしても。
すごい筋肉。
袖のない上着から覗く腕は、私の太ももくらいあるんじゃないだろうか。
毎日畑仕事をしたら、あんな体になるんだろうか。
思わず、じっと見つめてしまう。
「そんなに、うちの旦那を見つめないでもらえるかしら?」
「!?」
艶やかな声に振り返る。
そこに立っていたのは、一人の女性だった。
長く濃茶の髪がさらりと揺れる。
吸い込まれそうな瞳。
しなやかな立ち姿。
艶やかな美女。
その人は優雅な足取りで私の前まで来ると、そっと指先で私の頬をなぞった。
「……可愛い子ねぇ。」
息が止まる。
近い。
近すぎる。
神王が「豪快」という言葉そのものなら、この人は「美しい」という言葉そのものだった。
ただそこに立っているだけで、目を逸らせなくなる。
そんな、不思議な魅力があった。
くすり、と微笑む。
「だめよ? かわい子ちゃん。この人は、私のものだから。」
「え、えぇっ!?」
思わず神王を見る。
当の本人は豪快に笑っているだけだった。
「はっはっはっ! 相変わらず焼きもち焼きだなぁ。」
「当然でしょう?」
美女は肩をすくめる。
「貴方は世界一いい男なんだから。」
「そんなこと言うのはナナシくらいだがなぁ。」
豪快に笑う神王と、呆れたように、それでも幸せそうに微笑む美女。
……なんというか。
思っていた神王夫妻とは、ずいぶん違うみたいだった。
地の神王は、ふとレンへ視線を向けた。
「おっ。こっちの坊主が、カグツの息子か?」
こくん。
レンが頷く。
「いい面構えじゃないか!」
地の神王は満足そうに頷き、豪快に笑った。
「まぁ、まずはゆっくり休め!」
「腹が減ってちゃ、いい話もできん!」
「うまい飯をたくさん用意してやるからな!」
その笑顔を見ていると。
地の神国に着いたんだと、ようやく実感が湧いてきた。




