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星と呼ばれた少女  作者: さかい
地の神国
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第十話 街道の異変


 私たちは、街道を進んでいた。


 地の神国の空気は、穏やかだった。


 整えられた道がまっすぐ先へ伸び、人の往来も少ない。


 首都まではまだ数日かかるらしいが、少なくとも今のところは問題なさそうだった。


 ……そう思った、その時だった。


 ガサッ。


 草むらが大きく揺れる。


 次の瞬間。


 黒い巨体が勢いよく飛び出した。


「ヒカリ!」


 ヴェル様の声が響く。


 魔獣は鋭い牙を剥き、一直線に私へ飛び掛かってきた。


 その前へ、レンが素早く踏み出す。


 片手をかざした瞬間。


 轟ッ――!!


 灼熱の炎が一直線に駆け抜けた。


 一瞬だった。


 魔獣は炎に飲み込まれ、そのまま数メートル先まで吹き飛ばされる。


 地面へ叩きつけられた魔獣は、そのまま動かなくなった。


「……え。」


 思わず声が漏れる。


 レンも、自分の手を見つめていた。


「レン、ちょっと火力強すぎない?」


「……調整に慣れてない。」


「調整?」


 首を傾げる私に、カグツさんが苦笑する。


「マナを得たからねぇ。」


「急に川幅が広がったようなものなんだ。」


 そう言って、指先で地面をなぞった。


「今までと同じ感覚で神力を流しても、流れる量そのものが増えてしまう。慣れるまでは、どうしても加減が難しいんだよ。」


「なるほど……。」


 レンは少しだけ視線を逸らした。


「……慣れれば、大丈夫。」


「うん。レンなら、すぐに慣れるだろうね。」


 カグツさんはそう言うと、倒れた魔獣へ歩み寄った。


「……ん?」


 しゃがみ込み、毛並みや牙、爪を一つひとつ確かめる。


 やがて、不思議そうに首を傾げた。


「おかしいねぇ。」


「どうしたんですか?」


「この魔獣、地の神国に生息する種類じゃないんだ。」


「え?」


「この土地では生きられないはずなんだけどなぁ……。」


 その言葉に、場の空気が変わる。


 ヴェル様も静かに魔獣へ視線を向けた。


「……間違いないのか。」


「ああ。」


 カグツさんはゆっくり立ち上がる。


「街道沿いで魔獣が出るなんて危険だし、少し周囲を確認してみよう。」


 そう言ってヴァスキさんへ視線を向ける。


「ヴァスキ君、よろしくね。」


「……承知しました。」


 短く答えたヴァスキさんは、続けてヴェル様を見る。


 カグツさんも頷いた。


「ヴェルは、ヒカリさんをお願いしますね。念のためです。」


 その一言で、場の空気が少しだけ張り詰める。


 ヴェル様は静かに頷いた。


「ああ。」


 ヴァスキさんは周囲へ鋭い視線を走らせると、森の奥へと姿を消した。


 残されたのは、私とヴェル様、それにカグツさん。


 静寂が戻ると、さっきまで気にならなかった風の音まで耳に届く気がした。


「……ヴァスキさん、一人で大丈夫かな。」


 思わず口にすると、カグツさんは小さく笑う。


「彼なら心配いらないよ。」


「でも、何かおかしいってことなんですよね?」


「そうだねぇ。」


 カグツさんは倒れた魔獣へ目を向けた。


「本来なら、この土地にはいない種類なんだ。」


「理由は分からない。でも、今考えても答えは出ないかな。」


 そう言って肩をすくめる。


「ヴァスキ君が周囲を見てくれるだろうし、まずは報告を待とう。」


 私も頷いた。


 ヴェル様は静かに辺りを見渡している。


 いつもと変わらない景色。


 風が草を揺らし、小鳥の鳴き声が聞こえる。


 それなのに。


 胸の奥には、小さな違和感だけが静かに残っていた。


 しばらくして。


 草を踏み分ける音が聞こえ、ヴァスキさんが戻ってきた。


「お待たせしました。」


「どうだった?」


 カグツさんが尋ねると、ヴァスキさんは静かに首を横へ振る。


「周囲に異常はありません。」


「この魔獣以外の痕跡も見当たりませんでした。」


「そう。」


 カグツさんは少しだけ考え込むように顎へ手を添えた。


「じゃあ、先を行こうか。」


「一応、周囲への警戒は強めておこう。」


 私たちはそれぞれ元の位置へ戻る。


 私は馬車へ乗り込み、小さく息をついた。


 ゆっくりと馬車が動き出す。


 街道は相変わらず穏やかだった。


 風が草原を渡り、青空には雲がゆっくりと流れていく。


 何も変わっていない。


 そう見えるのに。


 胸の奥に残った小さな違和感だけは、どうしても消えてくれなかった。


 私たちは首都を目指し、再び街道を進んだ。


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